長屋王家の自家栽培パクチー(?)
去年の冬頃、パクチーハウス東京の店長さんだった方がSNSに「パクチーは奈良時代からあった!?」って投稿されているのを見て、ちょうど通信大学の課題レポート作成のために読んでいた本が奈良時代とタイムリーで思わず反応してしまったことがあったんです。
つい最近、通信大学のスクーリングで古代史の授業を受けるまで、そのことはすっかり忘れていたんですが、平城京や長屋王邸宅で発見された木簡に関する記述を読んだ時に、「あっ!」とパクチーのことを思い出したんですよ。
これですね。
この木簡に書かれている「古自」が「パクチーの類」として博物館の企画展示で紹介されていたということなんですね。
パクチーの歴史をググってみると、
なるほど、平安時代中期の文献に記載があったということですね。で、「日本へは10世紀以前に中国から伝えられたと考えられており」とあります。文献資料は10世紀までしか遡れていないから、ということですね。
世の中とっても便利になりました。ネットで「延喜式」が見れるんですよ。
と、延喜式には天皇へ献上する野菜の1つとして、そして耕作の手順が記載されているんですね。
そもそも、延喜式とは、
律令の施行細則をまとめた(平安時代編纂で最も古い)法典とあります。そして、その律令が制定されたのは奈良時代です。701年に大宝律令制定、757年に養老律令が施行されています。
なので、奈良時代においてもパクチーを栽培し、天皇に献上していたのではないかと思うんですよね。1)律令の施行細則を文書にまとめていたけど、その木簡がまだ発見されていない、2)もしくは文書には残していないが行われていたので、平安時代に入って延喜式に編纂されたのいずれかではないかなと勝手に思ったわけです。
長屋王邸宅跡地で発見された木簡に戻ります。
長屋王について説明すると長くなりそうなので、ざっくりと、天智天皇と天武天皇の孫であり、妻である吉備内親王の母は元明天皇、兄弟は元正天皇、文武天皇であり、最終的には正二位・左大臣まで務めたスーパーサラブレッド政治家です。
長屋王の邸宅は平城京の一等地、平城宮のすぐそばに四坪(約7万平方メートル)というとんでもない広さ!(下写真の赤色の部分)
奈良そごうがあった場所で、奈良そごう開業前の発掘調査で木簡が大量に出てきて、その木簡から長屋王邸だったと判明したんですね。
上述の「古自」と書かれた木簡が発見された場所は、以下の写真の黄色の部分(SD4750)になります。
この溝状土坑からなんと3万5千点強の木簡が発見されました。全国から届けられた品物に添えられていた木簡がいらなくなったから、穴掘って捨てたんでしょうね。この溝がゴミ捨て場だったのかもしれません。
その中に「古自」の木簡もあったわけですが、
長屋王家が各地に所有する御田・御薗のうちの1つ、耳梨御田で収穫された野菜を長屋王宅に運び込む時に付けられた進上状の木簡になります。
耳梨御田司というのは、耳梨御田を担当する部署で、その担当役人は太津嶋という人だったのでしょう。そして、間佐女という人は実際に収穫を担当した人のことだと思われます。
「古自」と書かれた木簡は、検索で5件ヒットしました。
「古自」は耳梨御田だけではなく、山背御薗からも届けられています。耳梨御田は奈良県橿原市、山背御薗は大阪府河南町にあったようです。
結局、「古自」ってパクチーのことなの?
明治政府が編纂した古事類苑(百科事典のようなもの)の胡荽(パクチー)の部分を見てみると、胡䕑、胡荽、古仁志、こし、こにし、と書かれているわけですよ。
「古自」って「こし」とも読めなくないですか?
奈良時代は「こし」を「古自」という漢字に当てていたのではないか?とも思えるんですよね。で、ここで行き詰まりました。なので、展示ではパクチーとは言えず、パクチーの類となったんでしょうか?
でも、私は「古自」=「パクチー」だと思っているんですけどね。長屋王家は食事にパクチーを頂いていたんですよ、きっと。なんなら、余ったパクチーは売っていたかもしれない。
長屋王邸で発見された膨大な木簡から、華麗なる一族、長屋王家の暮らしが分かってきていて、もはや長屋王カンパニーじゃないのかってくらい、政治家やっている合間にビジネスもやってました?って感じなんですよね。
木簡が発見されていないから分からないけど、他の皇族や氏族たちも所有する土地でパクチーの栽培をしていたかもしれない。
もっと言うならば、パクチーは奈良時代以前、弥生時代にはもう伝わっていたかもしれない。けれども、文字史料の限界が奈良時代だと思うので、パクチーの種がついていた弥生時代の土器が発見されるとかしないと分かりませんよねえ。
と、通信大学の古代史のレポートで京の変遷について調べていたはずなのに、横道に外れて、ずっと長屋王のことを追っかけてました。
地味に私の中では長屋王ブームなのです。
参考図書:
長屋王 寺崎保広著 吉川弘文館
平城京 長屋王邸宅と木簡 吉川弘文館