Vermilionな日々side.デルタフレア
「僕って、かなりクールだと思うんだ」
「……デルタちゃん。それマジで言ってる?」
学校からの帰り道。隣を歩く友人に日頃から思っていたことを話すと、なぜか変なものを見るような目を向けられた。
確かに、僕の見た目がクールとは言い切れないのは自覚してる。認めるしかない。
身長は低いし、目つきだって鋭くない。動物を思わせる耳や尻尾を持っているけど、それは可愛いがられる方面にしか役にたってない。
だからこそ、僕は行動や言動で自分のクールさを表現してきた!
「ほら、僕が黒を着るとクールに見えるでしょ?」
「あ〜、赤と黒のパーカーでしょ。めっちゃ可愛いよね」
「かわっ!で、でもほら。髪もしっぽも伸ばしっぱなしでおしゃれしてないよ?」
「にしては、どっちもさらさらふわっふわだけどね。めっちゃお手入れしてんじゃん」
「そ、そうだけどっ!けど部屋にぬいぐるみとかはないよ!」
「代わりに龍のキーホルダーめっちゃあるけどね」
「あれはカッコ良いじゃん!」
「クールではないっしょ!」
僕は気持ちを全く受け入れてくれない友人とは逆の方向に顔を向けると、ツン、と口をとがらせた。
こんなに頑張ってるのに、なんでわかってくれないかなぁ。まぁ、彼女の言うことにも、ちょっとは自覚はある。ほかの友人からもクールという評価をもらえた試しがない。
普段からクールっぽい格好や行動をしているはずなのに、どうにもクールと思ってもらえない。僕の考えるクールさに足りないものがあるのか、みんなが僕をクールにさせないための策略なのか。たぶん前者なんだろうね。どうにも「可愛い」っていう評価を覆せない。
それでも、昔よりはぐっとクールになったはずだ。近所に住むおばあちゃんたちも「デルタフレアちゃんはクールだねぇ」と僕の手をさすりながら言ってくれる。カイロもくれる。だからこそ、この友人たちからクールと認められれば、誰もが認めるクールになれたと言えるだろう。
僕は背けていた顔を空に向け、小さく握りこぶりを作る。よし!またがんばろう!
そんな僕の姿を見た友人は、腰に手を当てたまま、大きくため息をついた。
「中学に上がってからはいつもこうだよ。何に沼ったの?」
「沼ってないし。カッコ良いってだけじゃん」
「似合ってないのよあんたに。昔は可愛いの好きだったじゃん」
「え〜。昔は昔、今は今!いいじゃんカッコ良いのが好きでも」
「別に悪いとは言わないけどさ。けど」
「けど?」
「似合わない」
本当に情けも容赦もオブラートもないなぁこの友人は!立ち止まった僕は友人の後ろ姿に向けて、小さく舌を出す。
ほんとうに、この友人は口が悪い。しかも言うことが的確だから始末もわるい。更に、髪をかき上げながらいう所がまた、僕の思い描くクールさよりもかっこよくて、すっごくずるい!
彼女は一向に歩かない僕に気が付いて立ち止まると、困ったように笑いながら引き返してくれた。
「あーもうほっぺたふくらませんな。そういうのが可愛いんだよ」
「可愛くないし」
「はいはいカッコ良いカッコ良い」
適当な慰めの言葉とともに頭を撫でられる。ぜ〜ったい思ってもないよこいつ。でもその手を払いのけずにされるがままになっている僕。あ〜もう、勝てないなぁ。
頭をふって撫でる手を払いのけ、彼女と共に帰り道を歩く。
彼女とはいつもこうだ。じゃれ合いにも似たやり取りを、飽きもせずに毎日やっている。
まぁ、嫌とは言わないけどさ。嫌ではないけどこう、なんかむずむずする。僕が子供っぽいことを自覚させられるというか、彼女に負けているような気分になってしまう。いや勝負じゃないけどねっ。
こんな時に思い出すのが、近所に住むお姉さんだ。
会うといっつもお酒を飲んでいて、路上で吐いたり頭を抱えてうんうんうなっている、駄目な大人、駄姉。
まったくもってカッコよくないし、あんな大人にはなりたくないと思っている。
だけど、写真で見るお姉さんは、本当に、きれいなんだよなぁ。
「あ~あ、あんな大人になるのはまだまだ先だなぁ」
「ん?どったの」
「なんでもな~い」
この気持ちは、いかに友人といえども、ましてや駄姉本人になんて絶対言わない、私だけの秘密。
私だけのささやかで、キラキラした、カメラ越しの憧れ。
明日もまた、あの輝き目指してがんばろう。
そのためにもまずーー。
「やっぱり、シルバーとか巻いた方が良いのかな?」
「あんたはまずクールの方向性を直しなさい」