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異星人組曲 3(連載小説)

『はあ、なんちゅー日差ししてんねん。わいを殺す気かおい』
『どーどー。太陽はただいつも通り光ってるだけだから、地球の回転のせいでギラギラし過ぎてるだけだから』
 太陽に向かってメンチを切る八木やぎを、連日あやす日々である。
 二回目の席替えで、めでたく窓際の前と後ろになった八木と未唯子みいこ
 しかし、初夏に差し掛かる六月は、窓際が煉獄へと向かいだす時期でもあった。
『エアコンはいつつくんや』
『七月からだよ』
『嘘やん。もっと地球に逆らえや地球人!』
『ミミちゃん貸してあげようか? 冷たくて気持ちいいよ』
『どちくしょう。コーティングのせいで保冷剤も借りられへん!』
『むむ。ミミちゃんは保冷剤じゃないよ』
 抗議するように、未唯子の胸元がポコポコ動いた。
 件のイエティの幼生はミミちゃんと名付けられ、すっかり未唯子に懐いていた。
「さー、朝のホームルームはじめるぞー」
 騒がしかった教室がようやく落ち着いてくる。
「なんと、今日は転校生がきてるぞ」
「おぉぉぉ」
 沸き立つ教室内で颯爽とやってきたのは、栗色の髪の毛を上の方でポニーテールにしている女の子だった。
阿方律あがたりつです。よろしくお願いします」
「わー、めちゃくちゃかわいい子きたー」
「よろしくー」
 クラスのみんなとは対照的に凍り付く二人。
『どういうことかな? 八木君』
『さっぱり分からん。寺田てらだはん。確かにパトロール隊に引き渡したはずなんやけど』
「じゃあ、阿方の席は寺田の隣な。まあ、一番後ろだから気楽にな」
「はい。ありがとうございます」
『みんな、なにも気づかないね』
『寺田以外は記憶操作されとんねん。問題を起こした異星人の記憶は抹消されるんや』
 洗練された歩き方。
 凛とした佇まい。
 自慢の友達だったあの頃と同じだった。
「よろしく、寺田さん。こんなかわいい子が隣で良かったわ」
「よろしく」
 えくぼができる笑い方まで同じ。
 さっきまで暑かったのに、今は極寒のようだ。

 阿方律が帰ってきた。

「寺田さんは、なにを食べるのが好きなの?」
「えーと、おやつも好きだし。ご飯も好きだし、何でも食べるものが好きかな」
「そうなんだ。じゃあ帰りにカフェに行かない?」
「えーと、今日はママがすごいご馳走を用意しているみたいだから、すぐに家に帰ろうと思ってて……」
「じゃあ明日は?」
「明日は学校休みだよ」
「じゃあ休み明けはどう?」
「えーと」
「そこらへんにしときい。寺田困ってるやろ」
「は? なんであんたが間に入ってくるのよ。あたしは寺田さんと話をしているのよ」
「はーん?」
 バチバチと火花が見えそうななか。
 こっそりと抜け出す未唯子。
 付き合ってられない。
「なあ」
「なによ」
「寺田。もう帰ったで」
「あんたが邪魔したせいでね」
「で、なんであんさんがここにおんねん」
「好きなのよ。みーこが。本当にね」
「答えになってへんな。捕食するんが目的だったんちゃうんか」
「昔はね。でも、今はもう捕食できないわ。あたしは能力を制限されてんのよ。あんたのせいでね」
「ほーん」
「ただ好きなのよ。だから、あんたとなんて絶対添い遂げさせないんだから!」
「いや、別にわいら付き合ってへんし」
「それなら好都合。なら永遠に知り合いで終わるがいいわ!」
 そう言って、去っていく阿方を眺める八木。
「ほんま、異星人ホイホイやばいわ~」

『あー寺田、聞こえるか?』
 ベッドで転がってたら、声がきこえてきた。
『なあに?』
『阿方の件なんやけど。あいつ能力制限されてんねんて。せやから、人を捕食したりはもうできひんねんて。ただ、寺田が好きで帰ってきたらしい』
『あっはは。もう、異星人ばっかりぃ』
『ほんまにのう』
 一緒にベッドで転がっていたミミが、頬にすりすりしてきた。
『もうみーんなかわいいわ』
『あんさん。包容力が宇宙並みやん』
『もうなんでもござれですね』
『惚れそうやわ』
『ほんと?』
『いや、まだまだやけどな!』
 窓から覗くと、そそくさと去っていく八木の姿が見えた。
『ばあーん』
 拳銃に見立てた指で、未唯子は八木を打ち抜く。
「あかん。精神集中せな、聞こえてまう」
 できる限りの速さで、八木はそこから離れた。

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