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父はいつも真顔で夢に出てくる
姉は最近、父の夢を見るという。
「会いたいっていうわたしの願望だと思うんだけどね。」
それを聞いて父の夢にまつわる話しを色々と思い出した。
父が亡くなる直前、姉のお腹の中には子供がいた。父にとって初孫だった。姉が父に、
「子供が生まれたらお父さんに抱っこしてもらわなくちゃね。」
と言ったら父は
「もう抱っこしたよ。夢の中で。」
と言ったらしい。
その話しを父が亡くなった後に聞いて、そうか、良かった。抱っこ出来たんだね。と姉と2人で号泣した。
亡くなってちょうど3ヶ月後、姉はかわいい女の子を産んだ。
父が亡くなって4ヶ月を過ぎた頃、父が笑って楽しそうにしている夢を見た。母にそのことを話したら、母も父が笑っている夢を見たという。毎日のように泣いていた母とわたし。
「向こうで楽しくやっているから、もう泣くな。」って言いたいのかもね。と母とまたもや泣いた。
初めて子供を産んだ時、1ヶ月程、姉の家でお世話になった。2時間おきの授乳で睡眠がなかなかとれなかった。授乳の合間、ウトウトした時に父の夢を見た。
父は真顔でわたしの子供を抱っこして、じっと子供の顔を見た。そしてわたしに子供を預けて背を向けて歩いて行ってしまった。去る父の背中にわたしは
「お父さん、わたし、子供産んだよ!何か言ってよ!お父さん!」
と叫んだ。
起きた時、泣いていた。
姉にそのことを話したら、抱っこしにきてくれたんだね。と言った。
わたしの願望だったのかもしれないけれど。
「ねえ、お父さんが夢に出てくる時、いつも真顔なの。お姉ちゃんの夢も真顔?」
「え?真顔…かなあ。そもそも普段からそんな笑う人じゃなかったでしょ。」
そうだった。お酒を飲むと陽気になるけど、普段は笑わない静かな人だった。
父が亡くなって25年が経つ。父と一緒に過ごした時間より長くなってしまった。
だんだんと記憶が薄れてきているのかもしれない。
そんな忘れた頃に父は夢に出てくる。忘れないでと言っているように。
忘れないよ。いつまでも。
でも夢でたまには笑ってね。
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