推しのいる日々ーその19 スモーキーパープルの約束
NYから帰国した推しの消息がプツリと途絶えて大層気を揉んだのだが、一週間ほど経ってようやく最新の彼の姿を確認することができた。THE FACT MUSIC AWARDS(TMA 2021)に推しのグループが出演したのだ。
先月来私が愛してきたローズピンクの髪はグレーがかった紫色に変わっていた。彼がNYに滞在中にも髪色がどんどん褪せていくのがわかったほどだったから、髪を染め直しているかもしれないという予想はしていたけれど、また微妙な色を選んだものだ。先月のピンク同様色持ちはよくなさそうだけれどこれが今月の彼の色であることを私は心に刻んだ。
毎月染め替えてくれると、企業のコマーシャル映像や公式から出てくる写真がいつごろ撮影されたものかがすぐ分かるのでありがたい。彼の髪色が中途半端な時に限って大量に撮影の仕事が入ったりする(そしてそれを私は2ヶ月くらい後になってから知ることになる)ので油断がならない。
さて、TMA2021の授賞式でのK君☆は白い大きな襟のシャツ、黒い長めのジャケットで登場した。SNSでは「まるでハリーポッターみたい」と言われていたけれど、グループのメンバーが並んだとき一番奇抜で変わったスタイリングなのが彼であるという法則はいつもと同じだ。彼はその奇抜な服をバッチリ着こなして、カメラがアップになるとお得意のチャーミングな笑顔を見せてウィンクまでしてくれた。
ご機嫌だね。何より元気そうでよかった。
彼はK-POPアイドルグループのメンバーの一人。ここではK君☆という仮の名で呼んでいる。これだけ微に入り細に入り詳しく書いてるのに彼の名を隠す意味があるのか、最近では私もよくわからなくなってきているけれど、一応これが私なりの約束ごとなので悪しからずご了承いただきたい。
TMA2021でもグループのパフォーマンスはいつも通りの大トリだった。「CGを駆使し、映像効果をふんだんに使った豪華なステージ」という触れ込みだったのだが、このパフォーマンスは私には辛すぎた。韓国でテレビ放映向けに収録した映像なのだろうけれどカメラワークが良くない。アップと引きの映像が繰り返されて見ていると酔ってしまいそう。背景のCG映像やセットもありきたりで冴えない。春のロッテコンの時だって、もう少しセットもCGもよく出来ていた。
正直言ってテレビ局の撮る映像ってこの程度なの?と呆れる。なんでこんなぽっと出の新人歌手みたいな映され方しなきゃならないのかしら。K君☆はメインボーカルでもリードボーカルでもないので歌っている時間は短い。声を聞くチャンスは一瞬だ。その肝心の場面でなぜ他のメンバーをアップにするの(怒)。彼の「見せ場」を何だと思ってるのよ(怒、怒、怒)。
結局この音楽祭では推しのグループが5つの主要な賞を総なめしたらしいのだけれど、それはもう仕方のないことなんだろう。彼らに出演してもらわないことには音楽祭への注目度が変わってくるし、おそらく視聴率も、主催者が稼げる金額(世界のテレビ局やネットメディアに映像権利が売れる)が違うんだろうな、などと考えてしまうが、この程度の映像クオリティならもう出てくれなくていいよ、などと思ってしまう。
まぁ逆に言うと、それだけ事務所の映像制作能力が上がっているとも言えるだろう。今年の白眉はアメリカのTonight Showに出演したときのパフォーマンス映像だと思うけれど、橋の上でどんどん前進していく演出、それから照明が素晴らしかった。彼らの人気の秘密の一つは楽曲の良さ、そしてパフォーマンスのうまさ、それに加えてこの映像作りが上手いというのもあるんじゃないだろうか。
話を戻そう。
TMA2021の最後、大賞の授賞式でのK君☆は嬉しそうではあったものの何だかお疲れのように見えた。やはり深夜までの拘束は辛いんだろうか。きっと彼は今とても多忙なのだと思う。今月はオンラインコンサートがあるし、その1ヶ月後にはLAでのコンサートも控えている。その準備と同時に新しい曲の仕込みやミックステープ用の作業も進めているのではなかろうか。
先月もイギリスの某バンドとのコラボ曲がいきなり発表されて、しかもSF仕立ての恐ろしくかっこいいMVまで発表されて、いったい君たちいつこんな仕事してたの?と思わされたばかりだ(レコーディングは四月だったらしい。MV撮影は八月ごろだろうか)。
K君☆は髪色が変わると比較的早めにセルカを投稿してくれるのだけれど、今回はなかなか出てこなかった。 新しいスモーキーパープル色の髪でのセルカが投稿されたのは一週間近く経ってからだった。白い服もTMAで着ていたどの衣装とも一致しないようだったから権利調整でもあったのかな? しかも微妙にピントがあっていない。彼にしては珍しいことだ。
セルカを投稿した後、しばらく彼はファンからの質問にいくつか返事を書いていた。この日彼がもらしたのは「イボの治療している」こと。それが「注射」だという話だった。こういうほとんどどうでもいい情報をTMI(Too much information:ティエマイ)というらしい。ティエマイだろうと何だろうと、私は彼のことは何でも知りたい。
K君☆は自分の身体をとても大事にしているし、美容にもとても気をつけている人だからイボができたらそれが身体のどこであっても我慢ならなかったんだろうな、とそんなところにまで愛おしさを感じてしまう。ああ、やっぱり私はイカれている。でもいいのだ。この青年が存在している限り、世界は薔薇色で希望に満ちているのだから。
そんなことをつらつらと考えていたら、私の元にもう一つ大きなニュースが飛び込んできた。毎週火曜日の夜にネット上で放映されていた推しのグループのバラエティ番組、彼らの唯一のレギュラー番組が終了するというのだ。
私もこの番組の存在を知ってからは毎回欠かさず視聴していたので終わってしまうというのはとても残念なのだけれど、このニュースが意味することは明らかなのではないか。彼らは今、バラエティを収録している暇がない。つまり、今度こそワールドツアーに出るつもりなんじゃないか。だとすると、数ヶ月以内にほぼ間違いなく日本にもやって来る。
こりゃ大変だ!
私には早急にやるべきことがある。公式ファンクラブへの入会だ。それなしに一般人がコンサートのチケットを取ることはほぼ不可能だろう。ああ、お金はない。全然ない。だが、私の人生において「生で推しを見る」以上の夢があるか?いや、ない。何一つありゃしないのだ。気づいた以上今これに賭けないでどうするんだ。
K君☆、私は君に会いにいくよ。必ず。
スマホの画面の中でにこやかに微笑むスモーキーパープルの髪色の推しに、私はそう約束した。がんばれ、私。がんばれ、私のお財布。私は会いにいくのだ、愛する人に。
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