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2015/3/12 「ルパン三世−王妃の首飾りを追え!−」

★ルパン三世in宝塚?!

 宝塚歌劇がコミックやゲームの世界と相性が良いことは「ベルサイユのばら」や「逆転裁判」などの作品がすでに証明しているが、「ルパン三世」は元は青年向けコミック。私は上演が発表されたとき、真っ先に「すみれコードはどうするのよ」と叫んだ。(ルパンがトランクス一枚でベッドに飛び込んだりはできない、演じるのは女性なんだから、と後から気がついて自分でも笑ってしまったが。)

 宝塚歌劇団(と原作者のモンキーパンチ氏)が上演に踏み切るというからには出自は問わぬ、ということなのだろう。誕生からはや40年近くが経ち、すでにルパン三世はアニメや映画で知名度を上げ、いまや日本だけでなく世界にまで広く認知されたヒーローとなっている。宝塚の舞台にあげるには丁度良い頃合いではある。

 それでも、やはりポスターを見たときには大いに不安になった。早霧せいなのルパンを中央に据えて、右に次元、五右衛門、不二子、銭形。左にカリオストロ伯爵とマリーアントワネット。いったい何がやりたいのか、そしてどんな話になるのか、全く想像がつかない。爽やかすぎるルパン三世はともかく、右にも左にも漂う「これじゃない」感。本当にいいのだろうか。と、思っているうちに観劇の日がやってきた。

★ヒロインはマリー・アントワネット!

 主な配役は以下の通り。

ルパン三世(怪盗ルパンの孫)………………………早霧せいな
マリー・アントワネット(フランス王妃)…………咲妃みゆ
カリオストロ伯爵(謎の錬金術師)…………………望海風斗
銭形警部(ICPO警部、ルパンを追う)………………夢乃聖夏
次元大介(ルパンの相棒)……………………………彩風咲奈
石川五右衛門(斬鉄剣の使い手)……………………彩凪翔
峰不二子(謎の女泥棒)………………………………大湖せしる
ルイ16世(フランス国王)……………………………鳳翔大
ロアン枢機卿(ストラスブールの大司教)…………蓮城まこと
ノアイユ伯爵夫人(宮廷の教育係)…………………梨花ますみ
ポリニャック伯爵夫人(王妃の取り巻き)…………早花まこ
メルシー伯爵(オーストリー大使)…………………奏乃はると
ロベスピエール(革命の指導者)……………………香綾しずる
ジャンヌ・ド・ラモット(自称伯爵夫人)…………透水さらさ
レトー・ド・ラ・ヴィレット(ジャンヌの愛人)…月城かなと
セラフィーナ(カリオストロの助手)………………有沙瞳
アンリ(近衛兵)………………………………………帆風成海
ジョルジュ(近衛兵)…………………………………真那春人

 トップ娘役の咲妃みゆはマリー・アントワネット役。ということはマリーがヒロインである。役名を見る限り、どう見てもこれはフランス革命時代の宮廷ものだ。

 それにしても、宝塚というのは本当に振れ幅の大きな劇団だなぁと思う。一つ前の大劇場公演は壮一帆主演の「一夢庵風流記 前田慶次」だったはずだ。昨年の夏には雪組の子たちは髷結って和服で刀を振り回していたというのに、何という変わり身の早さであろうか。

★ルパン一味が18世紀にタイムスリップ

 実際に舞台を見て、私は脚本・演出の小柳奈穂子氏のやり手ぶりに驚いた。ストーリーは完全オリジナル。テレビアニメでお馴染みの個性の際立ったキャラクターが、18世紀末のフランス革命の時代を背景に活躍するという「タイムスリップもの」なのである。

 現在と過去を結ぶのは「王妃の首飾り」。ルイ15世が愛妾デュバリー夫人のために作らせ、ジャンヌという女性が王妃マリーアントワネットに渡すと偽ってロアン枢機卿に代金を支払わせて騙し取ったという逸話の残る、日本円にして時価30億円の首飾りである。たしかに、これほど大泥棒ルパン三世の獲物にふさわしく、なおかつ宝塚での舞台化に適した題材はあるまい。

 「王妃の首飾り」を手に取ろうとしたルパンと一味(次元大介、石川五右衛門、峰不二子)と銭形警部が18世紀末のフランスにタイムスリップし、そこでの様々な冒険を経たのちに現代に戻ってくるまでが、耳に馴染んだあの曲と、お約束のドタバタ逃走劇、そしてそれぞれの決めゼリフとともに舞台上に繰り広げられる。

 しかも、宝塚の人気演目「ベルサイユのばら」や「スカーレット・ピンパーネル」の名場面がセルフパロディとして登場するので、ルパン三世のファンにとっても楽しいが、宝塚ファンなら二度美味しい。

 終盤、処刑の朝マリー・アントワネットが「カペー未亡人」と呼ばれ「はい」と返事をするところや、そのアントワネットに兵士の一人が「王妃さまぁああ」と叫ぶシーンや刑場から屍体を運ぶ車を引く次元と五右衛門、それをチェックしようとする銭形警部の姿を見るとき、宝塚ファンなら皆クスっと笑える。

 タイムトラベルもののお約束「子孫の登場」もある。マリー役の咲妃はラストに現代人マリー・カペーとして再び登場して、王妃の首飾りの行方に大きな影響を与えるというのも面白い。タイムトラベルの前に展示されていた「王妃の首飾り」は復刻されたレプリカだったが、現代に戻ってきたら本物の首飾りになっている。マリー・カペーという女性の存在と本物の首飾りが、ルパンが過去を変えた証となる。
よく練られた面白い脚本だと思う。

★早霧ルパンについて

 だがこの舞台の成功は、ルパン三世を演じた早霧せいななくしてはあり得なかった。早霧の「ルパン三世」ぶりは実にお見事。宝塚の男役スターとしては身長は低いのだが、真っ赤なジャケット、派手なネクタイ、黒いスキニーなパンツの足の細さが、ややガニ股で歩く様が、もう見た目から完全にルパン三世である。

 私が観劇した日には、客席にルパンのコスプレをした男性が居た。髪も短めでもみあげが長く、たしかに男性がやるとこうなるというルパンの格好なのだが、早霧が見せてくれるのは「リアルな男性」というより「アニメのルパン」なのだ。ひるむことなく誰よりも大きな獲物を狙う大胆なチャレンジ精神、他人の思惑の裏をかき、計略を立てる頭の良さ。調子のいい喋りで人を自分のペースに巻き込み、それでいて女性には弱い。そんなルパン三世のエッセンスを、持ち前の運動神経と男役らしい演技で見事に体現して見せた。

 ルパンは素晴らしい自由な精神の持ち主であり、マリーやカリオストロを勇気づけ、生きる勇気を与えるが、その生業は人を騙し、他人の持ち物を盗むこと。宝塚も101周年めともなると、こんな新しいタイプの主人公をトップスターが演じるようになるのだなぁと感慨深い。

★次元、五右衛門、不二子も再現度はバツグン

 ルパンの相棒である次元大介役の彩風咲奈には驚いた。中の人は笑うと八重歯のこぼれる笑顔のかわいいお嬢さんだったハズなのに。早霧ルパンの隣で銃を片手にクールに決め、タバコをくわえた姿も様も次元大介そのものになりきっていた。まぁ、次元なので帽子とヒゲで顔はほとんど見えないし台詞は大変少ない。その分、見た目の雰囲気作りに情熱を傾けたのかな。でも、出来は想像以上だった。

 石川五右衛門は彩凪翔。女性がやる上で一番難しいのは実はこのキャラだったのだなぁ、と思う。あの剣士の格好をそれっぽく見せるのはかなり難易度が高い。しかも、剣士の技を見せるとなるとこれは至難の技といえよう。とはいえ、逃走シーンやフランスの兵士との格闘シーンでは彩風次元とともに見せ場が多い。「また、つまらぬものを斬ってしまった」という決めゼリフがあるのは美味しいね。

 峰不二子は大湖せしるで来るだろうと、ファンの誰もが配役予想していたが、やはり予想的中。彼女も再現度が高かった。難をいえば、髪型はもう少しボリュームをつけて欲しかった。不二子といえば色っぽい仕草とアクションだが。どちらもいい。「裏切りは女のアクセサリーよ」という常套句とともに、ルパンを裏切って敵方に寝返るというお約束は宝塚版でもしっかりと守られた。

★望海カリオストロ伯爵は悩める青年

 花組から雪組に組替えしてきた二番手格スターの望海風斗は、謎の錬金術師カリオストロ伯爵を演じる。ポスターでの衣装・外見が相当に怪しいので、私はこの伯爵が敵役になるのかと予想していた。望海カリオストロは、怪しげな雰囲気をまとった登場シーンから、その最大の武器である歌唱力を十二分に発揮。スターとしての存在感は抜群だ。

 だが、予想はハズレ。カリオストロは「いなくなった犬を探して欲しい」という貴婦人には、別の犬にもとの犬とそっくりのリボンをつけてあてがい、「ルイ15世の求めで作った首飾りが売れなくて困っている」と相談に来た宝石商には、「すぐに買い手が見つかるだろう」と適当な予言をして、小金をいただくセコい詐欺師であった。

 だが、ルパンとの出会いが彼を変えていく。かつて本物の錬金術師の元で修行した過去を思い出し、ついに本当の魔術を使う才能に目覚める。カリオストロ伯爵をめぐるエピソードは、挫折した青年の復活物語なのだ。戸惑いながらも目覚め、成長する潜在能力の高い人物という設定が、まるで役を演じる望海本人の立場にも重なって見える。考えてみると、ルパン三世の主要キャラでないにもかかわらず、ものすごい儲け役である。

★銭形警部は永遠に不滅である

 銭形警部役はこの公演で退団する夢乃聖夏。ルパンとその一味がマリーの持つハプスブルグの秘宝「マリアの涙」を手に入れ、カリオストロの力を借りて早々と8年後の未来へとタイムワープするのに対し、一人黙々とその時代の人たちとともに8年を歩む。実直な警部らしいエピソードが泣ける。しかも、8年後にはジャコバン党員となって、マリーの運命に関わるある役割を果たし、フランス近衛兵の二人と友情を結ぶのだ。

 銭形警部とそれを演じる夢乃には共通点がある。それは「足が長いこと」「情熱があること」だと私は思う。夢乃聖夏は宝塚の男役でも有数の素晴らしいプロポーションを持ち、そしてファニーフェイスであり、いつも暑苦しいほどの芝居をする。彼女ほど銭形警部役にふさわしいタカラジェンヌはいない。

 そんな夢乃はこの銭形警部役で退団する。退団した男役は「普通の女性」あるいは「普通の女優」になる。夢乃にはぜひ女優を目指して欲しいものだと思う。

★宝塚とアニメのコラボは主流になり得るのか?

 宝塚版「ルパン三世」は、当初ファンが予想していた以上に人気を呼び、宝塚ファンだけでなくアニメファンや男性など、これまで以上に幅広い人たちが劇場にやってきた。これはこれで喜ばしいことだと思う。私はたいてい夫と一緒に観劇するが、劇場の男子トイレが「これほど混んでいたことはない」そうだ。

 アニメやコミック、ゲーム原作をミュージカル化することを指して「2.5次元ミュージカル」というそうだ。こうした舞台作品が増えているらしい。かつて「ベルサイユのばら」を大ヒットさせた宝塚歌劇団は、2.5次元ミュージカルの老舗と言える。「ルパン三世」をヒットさせる素地は十分にあった。

 今の宝塚歌劇の潮流は、海外ミュージカルの上演権を買い付けて、それをカスタマイズするというのが一つ。以前上演して人気のあった作品を再演するというのが一つ。トップスターの退団など確実にチケットが売れる見込みのある際くらいしか、オリジナルの新作ミュージカルは上演されなくなってきている。

 そんなラインナップに今回「ルパン三世」が入ったことは少々驚きだったが、今回のヒットでこの線にはまだまだ脈がある、と歌劇団も感じたのではないだろうか。雪組の出演者もノリノリだったし、何よりとても楽しそうに演じているのが客席からも分かる、そして観客もそんな彼らを見て心から楽しむことができる。アニメやゲームの原作は広く知られているので、舞台に没入しやすいということもあるだろう。

 宝塚歌劇団が次にどんなアニメ・ゲーム作品を取り上げることになるかはわからないが、私がおばあちゃんになるまでに「宇宙戦艦ヤマト」あたりが舞台化されるんじゃないだろうか。皺だらけの顔で苦笑しながら私は見に行くだろうな、多分。

【作品データ】「ルパン三世−王妃の首飾りを追え!−」はモンキーパンチ原作、宝塚歌劇団の小柳奈穂子の脚本・演出。ファンタスティックショー「ファンシー・ガイ」とともに、宝塚大劇場で2015年1月1日〜2月2日、東京宝塚劇場では2015年2月20日〜3月22日上演。雪組トップコンビ早霧せいな&咲妃みゆの大劇場お披露目公演である。

#takarazuka #宝塚 #雪組


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