思い通りにならなかった出来事を振り返ってポジティブなストーリーを紡ぐスキル
先日、とある方から建築関係者のキャリアに関するインタビューを受けていました。ぼくがどんなことを考えて、どんな経験をして今に至っているのかという内容でした。
ぼくのよく使う言葉で言うと建築人生に関わるお話ですね(その内容は来月公開されるのでまたお知らせします)。
その中では色々な事を話しましたが、ぼくが自分でも印象的だったのは「自分のキャリアを振り返って肯定してあげよう」という話でした。詳細は本編を見ていただくとして、ここでちょっとだけ紹介します。
それは、自分が過去に関わった仕事等の、ネガティブな側面に注目するのではなくて、そのポジティブな側面に注目し、それを自分だけの強みとして捉えて、今につなげていこうよ。というようなお話でした。
例えば、建築家を目指している方がいるとして、有名アトリエ出身でないならば、その事を嘆くのではなく、自身が在籍した事務所で行った仕事との違いを見出し、それを言語化することで、自身の強みとして発信していくことができるのではないか。というお話です(建築家の世界って系譜のようなものが重要視される場面がありますよね。ここではこれの良し悪しについては触れませんが)。
そんなお話を僭越ながらさせて頂いていたのでした。
そんなことを、今日の朝振り返っていただのですが、ふと思い出すと、こういう考え方って、僕が今までその活動を見ていて活躍している建築家の人たちも、自然と行っている思考法なのではないかな、と思えてきました。
そして、建築設計者に必要な能力のひとつは「思い通りにならなかった出来事を振り返ってポジティブなストーリーを紡ぐ能力」なのではないか、という仮説が浮かびました。
ぼくも実務経験がありますが、建築設計監理の仕事って、何といっても思い通りになりませんよね。勿論大小はありますが、小さいことで言えば、現場で思いもよらぬ事が起きるのは日常茶飯事であるし、現実的に考えるとぶっ壊してやり直しができる時代でもない。
そして、もっと前提に立ち返れば、明確にクライアントがいる創作活動なので、そこでの要求や要望をくみ取ったりしていく中で、ものが立ち上がっていくプロセスなので、クラシックな価値観での芸術のような、思い通りにつくる、という事はあり得ない分野なわけですよね(芸術は社会をクライアントとして仕事をしていると僕は見ている側面もあるのですが)。
ともあれ、100%思い通りになったということは、ぼくはまずないと思うんです。
建築設計者は、そんな建築をつくるというプロセスの中で、「思い通りにならなかったこと」の中からも、ポジティブな意味を引き出してあげて、それを建築全体のストーリーと関連付けて、ポジティブに語っていくことで、それが意味を持って社会に伝播していくのではないかと。
思い返すと、昔読んでいた隈研吾さんのインタビュー集にもそのような記述がありました(手元にないのでうろ覚えなのですが)。隈さんは外壁に使う木に着色をしたくなかった、しかし施主はそれを強く希望していた。結果着色したのですが、それは出来上がってみると自分の中からは出てこない表現で悪くなかったと思えるようになった。というような内容でした。
これも、自分の思い通りにならなかったことをポジティブに捉えるという事だと思います。
思い通りにならなかった事柄に対して、ずっと「これはこうしたかったんですが~」「これは施主が~」という視点で語っても、あまり構築的ではないと思うんです。
ぼくがその活躍を見ている人たちは、そんな場面においては、「これはこうも捉えられるんじゃないか?」とか、「だったら、こっちを逆にこう変えちゃえば、こういう理屈がとおるんじゃない?」みたいな考え方をしているんですね。
そうすることで、出来上がった建築から、ポジティブなストーリーを紡ぎだし語っていく。それは、ぼくは嘘を言っている訳ではないと思うんです。どんな物事にも、色々な側面があり、悪い面、良い面があり、その良い面を解像度高く見て、そこを発信の起点にしていこうよ、という事です(もちろん犯罪とかは限りなく100%に近く悪いことですよ)。
こういう視点を持って活動し続けられるかどうか、というのは、特に発信という面から見ると、大きな差がついていくような気がします。
建築と言葉の関係には、色々な意見がありますよね。見ればわかる。経験することが至高という考えもありますし、言葉の中から建築が立ち上がっていくようなスタンスもあります。
現在を生きる、建築設計者が自身の言葉で語る意味は何でしょうか? 自身の考えたことを広く社会に伝え、自身の活躍の幅を広げていこう、とするならば、その作品と言葉の整合性が高いことにより説得力が生まれ、まるで西澤さんの言うブランディングのように、それは伝言ゲームのように、伝播していくと思うのです(それはネットの普及によって大きく加速もしていますよね)。
そんなメンタリティをもって、自身の作品に向き合う事は大事だし、自身のキャリア設計においても、実際の建築の設計及び発信においても、めちゃくちゃ大事なのでは、という事を稚拙ながらも書き綴ってみました。
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