自分を変えて生き残るーアーキテクチャーフォトの歴史と実践
先日ふと、architecturephoto名義になってから14年くらいたっているのですが、たった14年の間ですが、サイトで行ってきたことがずいぶん変わった(変えた)よなあと思ったのです。
ぼくは弊著『建築家のためのウェブ発信講義』でも変わっていくことが大事と書いていたのですが、自身でもそれを実践してきたように思います。自分ができる事が変わってきたのも勿論ですが、社会や周辺環境の変化によって、自分を変えてきたことも多々あります。そして、それが続いているからこそ生き残れている自負もあります。
ここでは、その変遷を記憶を頼りに書き綴ってみようと思っています。何か皆さんも感じることがあればと。
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まず、2007年頃、architecturephotoは、自身で撮影した建築写真を掲載するサイトとして始まりました。ウェブ発信は院生時代の2003年から始めていて、そこでは、自身の課題作品の紹介や展覧会レビュー、建築写真とコンテンツが混ざっていたのですが、それを整理して、建築写真一本に絞ったものがarchitecturephotoでした。
つまりタイトル通り、建築写真を載せるサイトだったわけです。
2007年はネット黎明期と言っていいと思いますが、ネット上にコンテンツがそれほどありませんでした。そのおかげであったエピソードは、サイトに載せていた藤森照信さんの建築の写真を見た、domusの編集部からメールで写真の撮影依頼があったことです。
今では考えられませんよね。でも当時はネット上で建築写真を公開している人も少なかったですし、皆がウェブサイトを持っているわげでもなかった、海外から日本の建築を紹介しようと思ったらそういう手段しかなかったのだと思います。
逆に言えば、それくらいネットで発信するチャンスがあった時代なんだと思います。
ただ、建築写真だけを更新し続けるということに限界を感じていました。ぼくはarchitecturephotoだけは趣味的に終わらせるつもりはなかったので、より多くの人に見てもらえる方法を考えざる負えませんでした。
そこで考えたのが、建築情報を併設して収集して発信する事でした。
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2007年頃のネット上には、まだarchdailyはありませんでしたし、dezeenは開設一年足らず、desiginboomはコピー&ペーストブログと名乗り、ウェブ上の写真を文字通りコピペして発信するという無茶苦茶な事をやっていた時代です。iphoneが発売されたのが2008年なので、それよりも古い時代です。
当時を回顧すると、ネット上に建築の情報はぜんぜんありませんでした。ただ、行政のウェブサイトは既に存在していて、その建設課のページなどに、著名建築家が設計した公共建築の写真などがいち早くアップされていたりしたことはおぼろげに覚えています。そういうものをまるで宝探しのように発掘して紹介していたのです。
そんな活動がアンダーグラウンドで話題となり、建築雑誌に載っていない情報が見られるサイトがあるぞ!と徐々に閲覧数が増えていきました。
この時のarchitecturephotoの役割と強みは、ネット上から最新の建築情報を探索して紹介する事でした。それはSNSもなく、積極的に発信が行われていないことで、ネット上で情報を探すのが難しかったことが大きかったように思います。
また、建築家がウェブで作品を発表する習慣もまだありませんでした。想像以上にネットがアンダーグラウンドなものと認識されていたからだと思います。
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2015年くらいまでを回顧すると、先のネット上の建築情報を網羅的にチェックしアーカイブとしてまとめる活動が主となっていたように思います。
今でも思うのですが、その時代のネット上の建築情報は今ほど飽和しておらず、かなり限定的だったのです。なので、一人の人間が建築意匠という世界に限定してしまえば、ネット上の情報も網羅的に集めることができたような時代だった気がします。
それはネット上の情報のみなので、勿論限定的なものだったのですが、当時はarchitecturephotoをみれば、ネット上にある主要な建築情報は全て押さえられているという自負がありました。
本当に世界中の建築サイトを巡回して更新チェックしていましたし、重要なものは全てリンクしていたように思うんです。
なにかそういう全能感を感じていました。笑
この時代のarchitecturephotoに求められていたのは、先の時代の探し出すというよりも、網羅的に情報をチェックし、有益性を判断しアーカイブしていくということに変化したのだと思います。
と同時に、建築家の皆さんに作品紹介のアプローチも始めていて、勿論最初から上手くいくはずもなく、どこの誰かもわからない人が運営するサイトに魂ともいえる竣工写真を提供してくれる方は少なかったように思います。
今振り返ると、この活動が現在の主たる活動である作品紹介に繋がってるのですから、どうなるかわからないものです。
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2015年以降の変化と言えば、SNSやウェブサイトでの建築家の発信が当たり前になっていったことでしょうか。もう爆発的にネット上の建築情報が増えていったように思います。そして、その量は増え続け、2020年以降はもはや一人の人間がその情報を網羅的に収集するのが難しいのは明らか、といった状況になっています。
やはりtwitterやinstaの想像を超える普及のネットに与えている影響は莫大です。多くの人が情報収集元としてそれらにアクセスするのが当たり前になっている。そして、建築家も自身の建築の足場が外れた状態の写真を、SNSにアップする。そうするともはやその1投稿がファーストパブリッシングになってしまう訳です。
第三者メディアが、そのスピードを越えるなんてことはあり得ない。そして、今まではネットに画像をのせるに抵抗を感じていた建築家も、気軽に写真をUPするようになります。そんな時代に第三者メディアが出来ることに対応しなければいけなくなったと思うんです。
2015年くらいまでの前段フェーズでは、architecturephotoの作品発表の在り方は、頂いた資料をあるていどそのままウェブ上にUPするという感じだったように思います。
その時代には、情報発信がメインで、その網羅的な情報に価値があり皆さんが閲覧に来てくれていたので、その中に作品が掲載されると自然に見てくれる人が増えるという循環が生まれていたんです。なので編集を意識することがありませんでした。
また、当時の僕は、ありのままを、ありのままに見せることにウェブメディアの価値があると思っていたのでした。
2014年に磯崎さんの新国立競技場に関する声明文を掲載させてもらったのは象徴的な出来事だったと思っています。磯崎さんは主要メディアにも声明文を送ったようなのですが、マスメディアの多くはそれを編集によって逆の意味ともとれる報道を繰り返しました。
そんな状況もあり、architecturephotoが全メディアに先駆けて、全文を掲載したことは、SNS上で話題になるどころか、マスメディアも逆に取り上げられ、architecturephotoに全文が載っていることがニュースになったりしました。
そういうこともあり、ぼくは、編集という行為に若干のネガティブなイメージを抱えていたんです。
だから、ありのままの建築作品を、ありのままに伝えたいと思っていたのでした。
ただそれも時代と共に変化していきます。
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2020年を過ぎると、ウェブで建築を扱うことはもはや一般化しました。紙媒体のみが建築作品の発表の場だとはだれも思っていないでしょう。日本においては、アーキテクチャーフォトがその慣習をつくってきたという自負はありますが、そうやってある種の成功モデルのように見られると、それを踏襲しようとする媒体が出てくるのも世の常です。
また、先に書いたように、ネット上の情報が溢れすぎている状況によって、ひとつのメディアが網羅的に世界の情報を集めていくということが不可能になってきたのもあります。
そんな中でarchitecturephotoというメディアが出来ることは何か?
今思っているのは、旧来からメディアが行ってきたのは作品の質を評価する、という役割だったと思うのですが、そこにその作品をより遠くまで価値が届くような編集を加えてパブリッシュすることができないだろうか。というのが僕が考えている、今のアーキテクチャーフォトというメディアの価値です。
過去に良くないと思っていた行為である「編集」にもう一度向きあい、正しい方法で編集の思想・技術を使えないかと思っている感じです。
建築家の方が作品を発表する媒体は自社サイトを含めもうすでにたくさんの場所が存在します。その中で弊サイトに掲載する意味やメリットを生み出さなければいけないと思う時代になっています。
今の時代のおける、アーキテクチャーフォトの強みは、
建築の実務を経験して、また様々な規模の設計事務所や、大学等のアカデミックな場に身を置いたからこそ培われた視点で、建築作品ひとつひとつの価値を相対化して理解し、それを編集と言葉で最大化した状態で、世に伝えることができる。
ということなんだろうと自負しています。
編集という行為を正しく使うことで、建築作品を正しく理解できる状況で世に送り出したいと考えています。このアーキテクチャーフォト独自の視点が、建築家の皆さんに提供頂いた資料に加わることで、例え他サイトに、同じ写真が載っていたとしても、アーキテクチャーフォト上で見ると、作品の良さがよく分かった!というような状況を生み出せないかと日々試行錯誤している感じです。
それが2021年現在のアーキテクチャーフォトというメディアの位置づけでしょうか。
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長々と書いてきましたが。たった14年の間にも、アーキテクチャーフォトが行ってきた活動は目まぐるしく変わってきたのだなと思えます。
もちろん日々の変化は緩やかだったと思うのですが、自分や周囲の変化に敏感になることで、結果としてみると大きな変化になっている。
そして、この変化があったからこそ、アーキテクチャーフォトは、今まで生き残れているのだと強く思うんです。
ぼくがここで言いたかったのは、設計事務所も同じなのではないかということです。社会の変化は常に起こっていますし、建築界を取り巻く状況も変わりますし、営業の在り方も変わり続けています。日々の設計業務は大変ですが、それと同時に、その小さな変化に敏感になり、自身の活動を変異させていくことが生き残りに繋がると考えています。
ぼくのアーキテクチャーフォトとは別のミッションは、ウェブ発信に関するノウハウや社会の変化を、設計者の皆さんにお伝えすることだと自負しています。かなり限定した領域ですが、その役割は日々増大してきました。そこをこれからも伝えていければ良いなと思っています。今後ともよろしくお願いいたします!
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「おまけ」
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