大会レポート② 記念セレモニー
オープニング
2023年11月29日正午、この日の朝から行われたシートノックを終え、整備された甲子園球場のグラウンドに静寂が訪れました。
2020年当時の球児たちが甲子園球場のグラウンドに集結する記念セレモニーの幕が上がりました。
スタンドからは選手の保護者や当時の指導者、高校野球ファンなど大勢の人たちが見守っています。またグラウンド内では、大会発起人の大武優斗と共に、大会アンバサダーである荒木大輔氏、上田剛史氏、古田敦也氏、矢野燿大氏(五十音順)も見守っています。
始めにバックスクリーンに映像が映し出されました。
甲子園が中止となった当時の様子、心境を語る選手たち。当時を回顧する言葉に観客も固唾を呑んで見守ります。
その後、この大会の存在を知った時の思いが語られ、未来への明るい希望が少しずつ差し込んできます。最後にこの大会に対する意気込みが語られたところで映像は終了となりました。
こちらのオープニングムービーは大会公式X(旧Twitter)にて公開されております。ぜひご覧ください。
動画が終了するとともに、約20秒間の開式を告げるサイレンが鳴り響きました。そして司会による開式が宣言され、いよいよセレモニーが開幕します。
今回のセレモニーの司会を務めたのは、内田瑚々さんと長友彩花さんです。内田さんと長友さんは共に2020年当時は高校の野球部のマネージャーをしており、マネージャー時代にアナウンスを行った経験を活かし、丁寧なアナウンスで進行されていました。
入場行進
開式宣言が終わると、いよいよ入場行進が始まります。
例年の夏の甲子園同様、トランペットとトロンボーンによるファンファーレが阪神甲子園球場に鳴り響きました。スタンドで演奏するのはこの日のために結成された特別ブラスバンド部隊の皆さん。あの夏を取り戻すため、学校や世代の垣根を越えて集結していただきました。
ファンファーレが終わると司会者の「選手が入場します」の言葉と共に選手が続々と甲子園球場へ入場してきました。
甲子園球場に響き渡るのはブラスバンド部隊による「全国中等学校優勝野球大会行進歌」――例年の夏の甲子園と同じ行進曲です。
行進を先導するのは向井萌さん。向井さんは本大会の参加選手と同じく当時の高校3年生です。
司会の「全国各地の選手、運営メンバーを結びつけてくれた野球 への感謝を胸に、入場行進を先導します」という紹介文と共に、堂々とした行進で選手たちを先導していました。
参加42チーム中、最初に入場してきたのは沖縄県の八重山高校OB。
偶数年の夏の甲子園では南から北の順番で入場しているという慣例に合わせ、記念セレモニーの行進でも南からの入場となりました。
入場してきた八重山高校OBの選手たちはホームベース付近で帽子を取り、スタンドへ手を振りました。これに対してスタンドからは大きな拍手が巻き起こりました。
その後も各チームが南から順番に続々と入場してきます。
記念セレモニーの前には参加チームによるシートノックが行われていたということで、中にはユニフォームが土で汚れた状態で行進する選手もいました。本大会ならではの光景です。
また、いくつかのチームではマネージャーがプラカードを持ったり、選手と共にマネージャーが行進していました。これは例年の夏の甲子園ではできないことで、これも本大会ならではの光景となりました。常に選手を支え、共に戦ってきたマネージャーも甲子園の土を踏むことができました。
行進の最後は北北海道のクラーク国際高校OBの選手たち。ついに、42チーム45校の選手たちが甲子園球場のグラウンド内に集結しました。
全チームの行進が終わり、行進曲の演奏が終わると、スタンドからは大きな拍手が巻き起こりました。
大会発起人挨拶
国歌演奏を終え、いよいよ大会発起人である大武優斗の挨拶です。
「目の前の景色を、僕は一生忘れません」――その一言から大武の挨拶は始まりました。
大武は甲子園が中止となったことに対し、「なんで自分たちは不幸な世代なんだろう」と思い続け、野球を見ることも出来なかったと語りました。自身と同じように前に進めていない選手がいることを知り、けじめをつけるためにあの夏を取り戻せプロジェクトを始めたと明かしました。
「プロジェクトを通じて多くの方々から支えられ、ここまで来ることができました」と明かし、高校野球に取り組めたことも多くの方々が支えてきたからだということにも気付いたと述懐。「僕たちは今も多くの方々に支えられ、人と人との繋がりの中で野球をしているということを、今この場に立ち実感しています」と語りました。
そして、選手たちに対し、「僕たちは不幸な世代なのでしょうか?可哀想な世代なのでしょうか?」と問いかけました。今はそうは思わないと答え、「あの夏を取り戻せ そして、超えろ。」がプロジェクトの合言葉であると明かしました。
自分たちの世代について「不透明な明日に希望を持ち、未来を変える意思を持った世代になります。そして支えられる側から、支える側になります」と宣言しました。
最後に「今日という日が"あの夏世代"にとって、『未来に進む』そんな日になりますように」という願いで挨拶を締めました。
お祝いの言葉
続いてバックスクリーンには萩生田光一氏からのビデオメッセージが映し出されました。
萩生田氏は2020年当時の文部科学大臣、あの夏の甲子園で始球式をする予定であったことを明かし、高校の後輩である斎藤佑樹氏から贈られたグローブを披露しました。
また甲子園が中止となった当時のことについて、「生涯もう本当に悔いの残ることでありました」と振り返りました。そして、選手たちに「失ったものを数えるのではなくて、この大会を契機にあの夏を取り戻してもらって、そして前向きに皆さんがそれぞれの分野で活躍することを心から願い、また応援をさせていただきたいと思います」とエールを送りました。
最後に「甲子園の土を踏みしめてください。芝を感じてください。甲子園の空気を感じていただいて、それをエネルギーにしてまた明日からそれぞれの目標に向かって歩みだしてくれることを心からお祈り申し上げたいと思います」とメッセージを贈りました。
続いて、寶馨日本高等学校野球連盟会長からのお祝いの言葉を、大会運営の宇佐美和貴が代読しました。
寶会長のお言葉では、まず甲子園が中止となり本気を出すことができずに2020年の夏を終えた高校生について、「その無念は想像を絶するものがあったと思います」語りました。また「高野連としても忸怩たる思いでその夏を終えました」と明かしました。
最後に「あの夏を取り戻すプロジェクトを本気で実現されましたことに、高野連としても敬意を申し上げます。また11月29日から12月1日まで続くこの大会に対して協力されました阪神甲子園球場をはじめ各野球場の皆様、様々な支援者の皆様にも厚く御礼申し上げます」と謝辞を述べられました。
最後に、矢野燿大大会公式アンバサダーからお祝いの言葉が贈られました。矢野氏は2020年当時の阪神タイガースの監督で、甲子園の中止を受けて全国の高校3年生の野球部員に甲子園の土が入ったキーホルダーを贈ることを発案したという経緯があり、大会公式アンバサダーに就任しました。
矢野氏は小さい頃から目指してきた甲子園が失われた選手たちの気持ちについて「その気持ちには本当に大きな喪失感と、どこにもぶつけることのできない悔しさがあったかと思います」と慮りました。また、その時から止まってしまった時間が、再びスタートをきる大会になると信じていると語りました。
そして、参加した選手たちへ「この甲子園球場の土の感触、芝の匂い、そしてグラウンドから見えるスタンドの景色、そんなものを思う存分味わって、楽しんでいってください」と語りかけました。
最後に「それでは皆、思いっきり楽しんでいってください」とエールを贈りました。
選手宣誓
選手宣誓の大役を務めたのは聖隷クリストファー高校OB(静岡)の大橋琉也選手です。
「2020年5月20日、戦後初めて甲子園大会が中止となった日のことを私たちは忘れません」――大橋選手の宣誓はその言葉から始まりました。
そして「過去の全てを取り戻せないことを私たちは知っています」という言葉に続けて、「それでも未練に終止符をうち、これからも続いていくそれぞれの人生に向き合うため、私たちはあの夏にこだわりきります」と宣言しました。
最後に「新型コロナウイルスによって様々な苦しみを受けたこの世代、また世界の人々の力になれるよう一投一打に思いを込めて、正々堂々と戦い抜くことを誓います」と高らかに誓いました。
大会テーマソング歌唱
続いて、大会テーマソング『君に捧げる応援歌』を歌われているHIPPYさんが盛大な拍手の中、甲子園球場に現れました。
選手を前に立ったHIPPYさんは、「この土に立つことが不可能と言われた皆さんが今こうやってグラウンドに立つ姿を見て、不可能という土にも花は咲かせることができるんだなと勇気をいただきました」と語りました。
そして「愛の手のひらで一緒に演奏していただくようよろしくお願いします!」の言葉に続けて、テーマソング『君に捧げる応援歌』を披露しました。
HIPPYさんの歌唱に合わせて、参加選手、そしてスタンドの観客から手拍子が巻き起こりました。
HIPPYさんは歌唱を終えると、「今日グラウンドに咲く笑顔が明日の種となり、新たな未来へ素晴らしき栄養になりますことをこころからお祈りしております」というメッセージを贈りました。
HIPPYさんが退場される際には、場内からは盛大な拍手が巻き起こりました。
選手退場
記念セレモニーの最後は、全国高等学校野球選手権大会の大会歌である『栄冠は君に輝く』に合わせての選手退場です。選手たちはとても晴れやかな表情でグラウンドを後にしました。
大会発起人挨拶やお祝いの言葉、選手宣誓では『未来』や『明日』という言葉が何度も出てきました。「あの夏を取り戻し、未来へ歩んでいく」そんな記念セレモニーとなったのではないかと思います。
そして選手たちの退場に合わせて、上空ではそれまで雲に覆われていた空から光が差し込んできました。これからの選手たちの明るい未来を表しているかのような、そんな空模様となりました。
文:二瓶祐綺
写真:あの夏を取り戻せ実行委員会
記念セレモニーの模様は11月28日までスカパー!の配信にて見ることができます。ぜひご覧ください。
プロジェクト公式サイト:https://www.re2020.website/
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