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一石を投じる 方舟 midnight sun~2023.12.10『潮崎豪&丸藤正道&拳王vs稲葉大樹&マサ北宮&征矢学』~


はじめに

「おい!丸藤!いつも美味しいところばかり持ってってんじゃねえぞ!いつもそうだ!だからなあ、このプロレスリング・ノアがテッペンまで行けねえんだよ!」

「俺は今決断したぞ。1.2有明アリーナはNOAHを改革する、そのスタートの日だ。」

2023.12.10に行われたプロレスリング・ノア キラメッセぬまづ大会。
メインイベント終了後に拳王がぶつけた怒りは、有明アリーナに向けた強い決意表明となった…。



沼津大会の約1週間前に行われた、プロレスリング・ノア2023年最後のビッグマッチ・12.2横浜武道館大会。

この日のメインイベントは、既に2024.1.2の有明アリーナ大会で決定しているGHCヘビー級王座戦『拳王vs征矢学』の前哨戦。
拳王の師にあたる新崎人生と、征矢の師にあたる藤波辰爾が、かつての弟子と師弟タッグを組んで激突するという豪華な前哨戦に。

拳王も征矢も師匠の技を使うなど、互いのルーツをぶつけ合う流れから、最後は征矢がドラゴンスリーパーで拳王から勝利。
試合後には征矢から、無我ワールド・プロレスリング時代に藤波の下を離れたことを涙ながらに詫びるも、藤波が征矢を激励したことから、1.2有明アリーナのGHCヘビー級王座戦は【師弟の絆】という要素も携えて期待を持たせる内容になった。


しかし、その数時間後に発表された有明アリーナのカードは、NOAHファンだけでなく、NOAH以外のファンに対しても波紋を生む事となる。


有明アリーナ大会メインイベントは、GHCヘビー級王座戦ではなく、『丸藤正道vs飯伏幸太』のスペシャルシングルマッチに決定したのだ。

この日のセミファイナル後に来場した飯伏幸太と、それに対峙した丸藤正道による13年越しのシングルマッチ。


GHCヘビー級王座戦がビッグマッチのメインにならなかったのは、2023.1.1ノア日本武道館大会以来だ。
ただ、この時は王座戦の『清宮海斗vs拳王』と大トリを務めた『グレート・ムタvsシンスケ・ナカムラ』は【ダブルメインイベント】という扱いで、順番は違えど同列という扱いで配慮されていた。


しかし、今回は単独のメインイベントが『丸藤vs飯伏』で、王座戦の『拳王vs征矢』はメインイベントではないという非情かつ厳然たる通告。

2年連続でGHCヘビー級王座がメインにならなかった上、有明ビッグマッチまで丁度1ヶ月というタイミングで決まったシングルマッチにメインを搔っ拐われる…。
この決断に対する反発は2022年日本武道館大会の比ではなく、その後、プロレスリング・ノアの親会社にあたる株式会社サイバーファイトの武田有弘取締役がノア公式noteにて詳細を説明する事態にまで発展した。


それでもなお、収まらぬ反発…。

しかし、有明アリーナビッグマッチに向けて火種が燻る中でも、興行は続いていく。

ビッグマッチ明けにして、"禍根"が生まれてから初となるノアの興行は、12.10キラメッセぬまづ大会。
そんな沼津大会が、大会2日前にノア公式YouTubeにおいて生中継されることが急遽決定した。


基本的に首都圏やビッグマッチを除いて、ノアの地方大会は動画配信サービス・WRESTLE UNIVERSEにて大会の約3日後に配信されるのが常である。
時折、そうした大会でタイトルマッチや注目カードが組まれた際には、その試合に限りノア公式Instagramにて生配信することはあったが、地方大会を丸々配信したのは異例中の異例だったように思う。

2023.6.24に行われた徳島大会も拳王の周年記念&凱旋興行ということもあって生配信が行われているが、この時はノア公式YouTubeチャンネルではなく、拳王のYouTubeチャンネルにて生配信されている。
このようなYouTube生配信は、2020年1月にサイバーエージェント傘下に入り、DDTプロレスリングの動画配信サービス(WRESTLE UNIVERSE)やABEMA格闘チャンネルで配信するようになって以降、私自身記憶にない。
(前の親会社・リデットエンターテインメント時代には度々生配信が実施されていた。)


生配信された沼津大会のメインイベントを飾ったのは、有明ビッグマッチのGHCヘビー級王座前哨戦。
だが、そのカードで拳王の横に組まれた1人は、有明でメインイベントに立つ丸藤正道だった。


前述のように、異例のYouTube生配信が成される沼津大会で、「拳王や征矢の口から何かしらのアクションがあるのではないか」と私は何となく考えていた。
そうでなければ、今大会は後日配信でも問題ないのだから…。生配信するならば、ここで何かしらのアクションをブチ込まないと意味がない。

そんな薄ぼんやりとした私の予想は、メインで大きく裏切られることになる。
それは非常に刺激的な、面白い方向へと…。


『潮崎豪&丸藤正道&拳王vs稲葉大樹&マサ北宮&征矢学』

15時にスタートしたキラメッセぬまづ大会は、セミファイナルまでの6試合がテンポ良く進んでいき、メインイベントが始まったのは16時30分頃であった。

2024.1.2有明アリーナ大会のGHCヘビー級王座戦で、自身初の同王座挑戦を果たす征矢学はマサ北宮や稲葉大樹と共に青コーナー側で入場。


対照的に赤コーナー側は、潮崎豪⇒丸藤正道⇒拳王と3選手が単独で入場していく。
試合開始前にアクションを起こしたのは、GHCヘビー級王者の拳王であった。


拳王は、入場シーンでポーズを取り終えて征矢と対峙した直後、味方である丸藤正道に向けてもベルトを掲げたのである。


試合が始まってからも、拳王は丸藤に対して一貫した敵意を向け続ける。

同じコーナーでタッグを組むにもかかわらず、丸藤を【メインイベンター】という言葉で挑発。


更には、丸藤との交代時には「強いところを見せてみろ」と丸藤を煽り倒す徹底っぷり。
この日の敵は征矢ではなく丸藤だったのではないかと私自身疑ってしまう程、拳王の憎悪は確実に丸藤へと向けられていた。


この日の丸藤を見ていると、入場時から常に険しい表情だったように受けた。
いつもならば何処か余裕綽々で、相手を見下ろすような笑みさえ浮かばせる"方舟の天才"が、入場後のウォーミングアップの段階から眉間に皺を寄せていたのだから…。


いつしか、拳王と征矢のマッチアップ以上に【メインイベンター・丸藤に強烈な対抗意識を隠さない拳王】という構図がハッキリ目立った試合は、単なる王座前哨戦という枠を超えて、有明ビッグマッチの試合順に対する拳王の問題提起が明確に打ち出される内容だったと私自身感じた。


有明ビッグマッチまで残り1ヶ月を切る中で不穏ムードに包まれた試合の結末は、実に意外なものであった。

拳王が稲葉を追い詰め、フィニッシャーであるP.F.S.を稲葉に投下して勝負ありと思われたタイミングに、丸藤が突如として拳王の背中にタッチしたのである。


これにより、拳王が稲葉をカバーしたことが認められず、拳王がレフェリーに抗議する隙を突く形で、丸藤が稲葉を仕留めて3カウントを奪取した。
丸藤が稲葉を仕留めた技は、飯伏幸太がフィニッシャーとして用いるカミゴェと同型であった…。


あまりにも予想外な結末に、拳王は丸藤に向けた感情を爆発させた。

「おい!丸藤!いつも美味しいところばかり持ってってんじゃねえぞ!いつもそうだ!だからなあ、このプロレスリング・ノアがテッペンまで行けねえんだよ!」


拳王の怒りを受け止めた丸藤の表情からは険しさが消え去り、いつもの余裕綽々な笑みを取り戻していた。
それはまるで、試合で拳王に散々挑発されてきた借りを最後の最後で取り返そうと決めていて、それが見事成功した事による表情だと言わんばかりの…。


冒頭で紹介した拳王のマイクは、メインのフィニッシュシーンに繋がっている。
前述した武田取締役によるnote記事でも触れられていた、丸藤本人の「5年後に引退する」発言への強烈な皮肉。
しかも、2年連続でGHCメインの順番を逃している当事者が怒りをぶつけているのだから、会場の雰囲気も一気に拳王支持へと傾いていったように感じた。


ただ、この発言には続きがあった。
拳王の発言に呼応するかのように、他の選手も主張を展開していったのである。

マサ北宮は、GHCヘビー獲りを拳王に宣言しただけでなく、予てより対戦を要求していた石井智宏(新日本プロレス)への感情を吐き出した。




『N-1 VICTORY 2023』覇者の潮崎豪も、GHCヘビー獲りを諦めない旨と、以前GHCヘビーを奪われた因縁を抱える小島聡との一騎打ちを1.2有明アリーナ大会でブチ上げた。


有明アリーナ大会で拳王に挑戦する征矢も、拳王が常々口にしていた【絶景】というフレーズを用いてGHCヘビー奪取を宣言。
拳王も絶景を見せることを観衆に向けて誓った。


2018年頃、丸藤や杉浦貴を始めとしたベテラン勢に、清宮海斗やマサ北宮、中嶋勝彦といった現世代の担い手が対峙した世代闘争が実現した際に、このような複数選手によるマイクの応酬はあったと記憶しているが、多くの選手が試合後のリング上でGHCヘビー獲りを口にした例はノアでは珍しい光景のようにも感じられた。


更に、拳王が1人だけリング上に残ると、将来的なGHCヘビーの年間最大ビッグマッチメイン実現と、ノアの改革を宣言して大会は終了した。


締めのマイクを終えた拳王は、東西南北の四方角に向けてGHCヘビーを高々と掲げてノーマイクで「俺がGHCヘビーをメインに戻してやる」という旨の言葉を発しただけでなく、何と最前列の観客とハイタッチで一周していったのだ。


拳王が観客席でハイタッチ一周のアクションを起こしたのは、私自身記憶にない。

地方大会で投じられた強烈な一石は、確実に会場の拳王支持を強固なものに変えて見せたのである。


まとめ~"問題作"を超えて生まれた、有明の結束~

ノア有明アリーナビッグマッチ直前に吹き荒れた、メインイベントの試合順問題。

この件から1週間が経っても尚止まない批判と疑念の強さは、強烈な話題性の裏返しだと私自身感じている。


そうした批判に対するアンサーと改革案を、弁の立つ拳王がリング上で行った事。
拳王の怒りに呼応するかのように、GHCヘビー級王座を狙いに行くと宣言した所属選手達の明確な主張。

これらは、1.2有明に向いていたネガティブな矢印をポジティブなものに転換させる、強烈な一石として作用するのではないか?


私自身、『拳王vs征矢学』のGHCヘビー級王座戦が有明アリーナのメインイベントに相応しいと感じていたし信じていた反面、全体の既出カードに物足りなさと不安を抱いていたのも正直なところである。
『丸藤vs飯伏』は、そうしたウィークポイントを埋める話題性はあるように思うし、カード発表後に飯伏ファンの方から私宛てに「チケットを買う際の正面側座席は何処になりますか?」という旨の質問を受けた事も、本件の話題性の強さを実感させられた。

嫌な言い方になるかもしれないが、団体内で満足する方向ならば、メインイベントはGHCヘビーで良かったと思う。
ただ、それだとメインの王座戦の前に帰られてしまうといったような、肝心な試合を見てもらえない恐れを私自身抱いてしまうし、何よりこれだけ試合順が議論を生んだのだから、話題性はあったと考えている。


今回の試合順批判の中には、2023.11.12DDTプロレスリング両国国技館大会のダブルメインイベントで、一番最後を『KOUNOSUKE TAKESHITA vsクリス・ジェリコ』のスペシャルシングルマッチより『クリス・ブルックスvs上野勇希』のKO-D無差別級王座戦にした事を評価する意見が聞かれた。

私自身、この日の大会は後半怒涛の展開を含めて素晴らしい試合内容だったと現地で感じたが、大会前は上記2試合よりも赤井沙希引退試合や『平田一喜vs高橋ヒロム』の方がDDT内外のプロレスファンに話題になっていて、(本当に申し訳ないのだが)KO-D無差別級王座戦に関しては、今回のGHCヘビー級王座戦のようなところまで話題が行き届いていない印象さえ受けた。


本件が賛否分かれるのは当然だとしても、団体の最高峰王座に向けられた話題は間違いなく大きい。
あとはもう、決まった試合順に対する悔しさだとか後押しの念とかを、私は会場で声援としてぶつけていきたい。


だからこそ、今回の沼津大会を見に行った事は、私にとっても大きな一石になったように思う。
非常に、期待感しかないです、私は。


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