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現実と残酷を受容する事について~2024.1.13『拳王vs潮崎豪』~
はじめに
圧倒的な敗北感と、突き付けられた容赦ない現実。
2024.1.13に後楽園ホールで行われたプロレスリング・ノアのGHCヘビー級王座戦『拳王vs潮崎豪』を見た、私の率直な感想である。
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私自身、この試合は潮崎の事を応援する立場で見ていたし、実際現地で喉が擦り切れるくらい潮崎に声援を送った。
私以外にも、潮崎の名前を叫ぶ観客の姿は少なくなかった。
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しかし、会場の声援は、最後まで拳王支持のムードに傾いていた。
会場から自然発生したテンポの速い拳王コールは、私が叫んだ潮崎に対する声援を容赦なく追い越してリング上へと降り注いだ。
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私がプロレスに触れる前の2013年秋頃、埼玉スタジアム2002まで観に行った柏レイソルのアウェイゲームで、真っ赤な浦和レッズサポーターによる大声援がレイソルのチャントテーマを搔き消す光景を目の当たりにした事がある。
今回のGHC王座戦は、その当時の情景を思い起こすものがあった。
一人の声を大きくしたとて、圧倒的な支持の前には太刀打ちできないという無力感…。
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潮崎の長期欠場明けにあたる2022年と2023年に組まれた拳王とのシングルマッチも会場で観戦していたのだが、会場での声出しが解禁された2023.6.22のシングルでも、ここまで潮崎に対するアウェイムードを感じる事は無かった。
今回の『拳王vs潮崎豪』には、2020年8月のダブルタイトルマッチのような熱狂と興奮も、復帰明けに感じた潮崎の再起というストーリーも、2023年のN-1優勝決定戦に抱いた初制覇の悲願も無い。
現時点の力量と支持率の差を如実に示す、ある種の残酷さが今回の一戦には詰まっていた。
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明確に可視化された支持率と、団体ファン層の変化
「そして、なんだよ、おい、今までただただ家でぐうたら生活してたヤツがなんで出てくるんだよ? 俺はな、テメーが家でぐうたらしている間も、ノアのため、自分のために体を張ってやってきたんだよ。おいしいところは全て持っていくのか? そんなんでな、I am NOAH? 俺がノアだ? そんなこと言っている場合じゃねーぞ。」
2021.11.28、中嶋勝彦とのGHCヘビー&GHCナショナルのダブルタイトルマッチで60分フルタイムドローの死闘を終えた後で、拳王が発したコメントである。
当時、長期欠場からの復帰発表と共に、中嶋に対して挑戦表明を叩きつけた潮崎に対する皮肉たっぷりのコメントだったのだが、あれから2年以上経って、両者のノア会場内支持率の差がここまでハッキリ浮き彫りになるとは予想もしていなかった。
ただ、その前兆は昨秋の時点で既に存在していた。
2023.9.3『N-1 VICTORY 2023』優勝決定戦。
『潮崎豪vs拳王』という大一番は、潮崎のリーグ戦初優勝という結果で閉幕したのだが、配信で視聴していても拳王に対する声援が潮崎コールを圧倒していたのだ。
リーグ戦制覇に中々手が届いていなかった潮崎にとって、初制覇のチャンスが懸かったシチュエーションはこの上ない追い風のように思えたものの、現実は拳王の観衆支持率の高さを示すムードとなった。
ただ、今回に関しては、潮崎の支持率が低いという問題だけではないようにも思う。
今回組まれた『拳王vs潮崎豪』のタイミングには、どこか唐突な空気も感じられたからだ。
「今、プロレスリング・ノアに強さ、激しさ、そして闘う姿勢。この3つが圧倒的に足りない。プロレスリング・ノア、俺が変えてみせる。いや、俺達が変えてみせる!」
2024.1.2プロレスリング・ノア有明アリーナ大会。
GHCヘビー級王座戦『拳王vs征矢学』が盛り上がった一方、メインイベントの『丸藤正道vs飯伏幸太』が散々な評価を下された同大会の第4試合で、小島聡に勝利した潮崎が、ノアに対する提言と共に『TEAM NOAH』結成を宣言。
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GHCヘビー級王座戦終了後、拳王の眼前に現れた潮崎が挑戦表明したのだが、着実に周囲の支持を集めてきた拳王と、地固めが成されていないユニット発足直後の潮崎では、立場も支持も歴然とした差があったように思えてならない。
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戦前の潮崎インタビューの内容も、どちらかというと三沢光晴や小橋建太からノアに入った守旧派ファンが喜びそうな主張で、拳王や清宮海斗など今の選手がキッカケでNOAHに触れたファン層とは真逆だった事も、拳王には追い風になったのかなあと私は思ったり思わなかったり…。
(拳王もノアの闘いを見せている人だから…)
――拳王は『方舟改革』を掲げているが、潮崎選手も別のアプローチでNOAHを変えていくと
▼潮崎「そう。確かに進化とか変化は大事だけど、どんな方向性でも良いというわけではなくて、NOAHとして変わってはいけないもの、大切にしないといけないものがある。変革するにも軸がなければいけないと思ってるんでね。NOAHが大きく変わった今だからこそ、改めて“NOAHの闘い"の本質をみせないといけない」
――ともに革新だが、拳王が革新系革新とすれば、潮崎選手は保守系革新の構図に見える
▼潮崎「そうだね。もちろん守りに入るわけではないけど、守っていかないといけないものもあるから。NOAHにはNOAHとして培ってきた理念や闘いがあるはずだから。昔からNOAHを見てくれていた人たちのなかには、もしかしたら離れてしまったファンの方もいると思うし。そんな人たちを『やっぱりNOAHの闘いはこうだよな』って呼び戻すようなものを見せていきたいし、新しいファンの人たちにも『NOAHってやっぱり凄いな、ほかとは違うな』っていう意識というか、誇りを今一度持ってもらえるようにしていきたいから」
私は2018年秋頃よりノアにハマり始めて、今では毎月生観戦に行くくらいの好きな団体になったが、この1~2年でファン層も大幅に入れ替わったように思う。
三沢光晴や小橋健太がいたイメージから、今は清宮海斗や拳王などの現世代が中心となって牽引しており、2023年以降はジェイク・リーの参戦もあってなのか、会場でも女性ファンが増加した印象を受ける。
コロナ禍以降、会場に足を運ぶ親子連れや学生の姿も度々目にしているし、本当に雰囲気は一変した。
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拳王が見せた絞め技1つで、客席から「拳王チャンネルで見たことある技だ!」という声が漏れ聞こえたこともある。拳王の支持は一朝一夕で形成された事実も、今回の支持率の差に繋がっているだろう。
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誤解を恐れずに言うと、今のノアを追って見ているファン層の中で三沢光晴や小橋健太がキッカケになっているケースは減りつつあると思う。
(それは、ノアに限った話でもないけれど)
でも、それ自体は否定的なことでは決してなくて、三沢や小橋のイメージに頼ることなく新しいものを作っていかなければ実現しない光景だったとも私は感じている。
現に私も、三沢や小橋は日曜深夜にTVで見ていたイメージしかないし、私がプロレスを知った2015年頃には2人とも既にリング上にはいなかった。
私が潮崎の事が好きなのも、単純にカッコいいからであって、三沢最後のパートナーだとか、小橋の弟子だといった過去は関係ない。
潮崎は、あくまでも潮崎なのだから…。
まとめ~絶望から出港した、『TEAM NOAH』の希望~
過去のような高揚感は無く、(潮崎ファンの私にとっては)地続きの現実を突きつけられた今回の一戦。
だが、一方で希望を抱く瞬間も間違いなくあった。
潮崎のコンディションが良くないという意見も聞かれたものの、右腕から放たれた逆水平チョップの破裂音も、拳王の最上級フィニッシャー・炎輪まで受け切る姿も健在だった。
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発足当初は反応も今一つだった『TEAM NOAH』も、この日迎えたユニットの初陣で勝利という結果を残しただけでなく、ここ最近は本興行でも試合数が減りつつあったモハメド・ヨネや齋藤彰俊が水を得た魚のように活躍した事実は、今後に向けたポジティブな材料になるはずだ。
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何より、試合後に見せた潮崎の眼で、「潮崎は未だ終わっていない」と私はハッキリ確信した次第である。
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後楽園ホール大会終了後、『TEAM NOAH』によるユニット興行開催が発表された。
潮崎も試合後バックステージコメントで言及したユニット興行だが、拳王の「もっともっと『I am NOAH』、そしてTEAM NOAHを上を持っていけ。それだけだ!」というエールにも似た檄を実現する舞台が即座に組まれた。
このチャンスを活かして、ユニットも自身もノアの最前線に上がっていけるかどうかは潮崎に懸かっている。
だからこそ、潮崎が好きな私は、2024年の潮崎豪も見逃せないと思った拳王との一戦なのでした…。