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Dive like hell and destroy~2025.1.11『征矢学vs遠藤哲哉』~


はじめに

「最高の遠藤コールをありがとう。TEAM 2000Xの遠藤哲哉だ。俺はなあ、このノアのプロレスに人生めちゃくちゃにされたんだ。BURNINGの源流?ハナから興味ねぇんだよ!俺がここに来た目的はただ一つ。2025年、遠藤哲哉の人生を賭けて、プロレスリング・ノアを潰します」


2025.1.11、プロレスリング・ノア後楽園ホール大会。

メインイベントで組まれたGHCナショナル王座戦・『征矢学vs遠藤哲哉』は、試合終盤にヒールユニット『TEAM 2000X』と結託した遠藤の凶器攻撃から、最後はトーチャーラックボム⇒バーニングスタープレスの必殺フルコースで王座が移動。

遠藤哲哉が第14代GHCナショナル王座戴冠を果たし、『TEAM 2000X』加入という衝撃のバッドエンドを迎えた…。


しかし、遠藤哲哉の『TEAM 2000X』加入とGHCナショナル王座戴冠に対して、不思議と肯定的な私がいた。

NOAH内のユニットに加入したことは即ち、NOAHのストーリーラインの中心に入り込むことでもある。
【DDTで試合に出る】という退路も絶った上で起こした彼の行動と覚悟は並大抵のものではないはずだ。

それが例え、ヒールターンという形であったとしても…。


NOAHファンにも歓迎された、遠藤哲哉の存在

衝撃のヒールターンから9日前のこと。

遠藤哲哉は自らのプロレスラー人生を賭けて、2025年はプロレスリング・ノアにレギュラー参戦する事を宣言した。


キッカケは、2025.1.1に行われたプロレスリング・ノア日本武道館大会だった。

OZAWAがメインイベントで旋風を巻き起こしたこの日、第2試合の8人タッグマッチに出場した遠藤哲哉は、対角線に立っていた小峠篤司から場外戦で攻撃を受けるなど、小峠から強烈に意識を向けられる形で新年がスタートした。


その翌日に行われた2025.1.2プロレスリング・ノア新宿FACE大会で、遠藤と小峠のシングルマッチが実現。


元々、『サイバーファイトフェスティバル2022』や2024年の『LIMIT BREAK』で遠藤と小峠が対角線に立つ関係性は既に出来ていたものの、シングルでの対決は恐らく初めてだったと思う。


この一戦に勝利した遠藤は、試合後のマイクで覚悟に満ちた決意表明を行う。


「去年(2024年)の12月までBURNINGというユニットに属しておりました。俺が影響を受けた偉大なプロレスラー・秋山準選手、そして、小橋建太さん。その源流が、ここ、NOAHのリングにあります。その源流に触れる為に、2025年、遠藤哲哉はプロレスラーとして人生を賭けて、このNOAHのリングに上がります!俺が、プロレスリング・ノアのリングを盛り上げていくから、応援よろしくお願いします!」


「秋山準選手や小橋健太さんの源流に触れる」

「2025年は、自分のプロレス人生懸けてNOAHに上がります」


遠藤の覚悟が込められたマイクに、会場のNOAHファンは歓喜し、遠藤コールで歓待したのである。

この日の新宿FACE大会は全カードが大会開始直後に発表される形式だったため、遠藤哲哉が試合に出る事は事前告知されなかった。
故に、遠藤を目当てに見に来たDDTファンはいない環境だったと言えよう。

そこで起きた遠藤に対する声援は、NOAHファンの遠藤に対する期待の表れでもあった。


NOAH参戦宣言後、遠藤は早速アクションを起こす。
セミファイナルのGHCナショナル王座戦で王座防衛を果たした征矢学に、挑戦を表明したのである。


舞台は2025.1.11プロレスリング・ノア後楽園ホール大会。
GHC初挑戦が、いきなりのメインイベント。

戦前、征矢が口にしている【情熱】のフレーズと、遠藤が前年末に解散したユニット『BURNING』の名前を絡める形で、熱を前面に押し出す煽りが展開され、試合前にもポートレートサイン会が行われていたのだが…。


既存の価値観を破壊した『征矢学vs遠藤哲哉』

今回の『征矢学vs遠藤哲哉』を見て感じたのは、試合内容も含め、「今までのNOAHにおける既存の価値観を破壊した」点にあるだろう。

2024年以前のNOAHにも、メイン後に王者が襲撃されるようなバッドエンドは存在していた。

しかし、それらのメインは、両者リングアウトであっても会場中の空気はブーイング一辺倒にならなかったし(※2024.6.9後楽園ホール大会の清宮vsゲイブ・キッド前哨戦etc)、王座戦にしてもセコンド介入から王座移動という展開は、最近のNOAHでも私の記憶にはない。


何より、この日のメイン前には『TEAM 2000X』と『ALL REBELLION』による対抗戦が3試合(緊急試合も含めれば4試合)続けて組まれており、介入や反則の展開が続いていた興行である。


だから、少なくともメインは外連味の無い、タイトルマッチに相応しい展開と内容を見れるものだと私は思っていた。


しかし、結果は先述した通りのバッドエンド。

試合終盤、『TEAM 2000X』の面々が現れた時には「流石に今は(介入は)やめてくれ」という悲痛な声も観客席から漏れていたけれど、その思いは私も一緒だった。
試合が良い雰囲気に差し掛かっていたところに水を差されるのは、どんなパターンでも本意ではないからだ。


しかし、遠藤はヨシタツの持っていたトンファーを用いて征矢を攻撃した。


今回の遠藤のヒールターンは、2025年元日の『OZAWAショック』とはまた違う、NOAH旗揚げ25周年イヤーに成されたチャレンジの一つだった。

他団体に向けた当時のNOAHファンによる「NOAHだけはガチ」というネットミームにも近いフレーズや、当時のファンによる所業の数々が未だに批判されたりするNOAHだけど、2018年頃からNOAHを見始めるようになってから私自身感じていることがある。

最近のNOAHファンは、「他団体やフリーランスであっても、NOAHを盛り上げてくれる選手を受容し、応援する」という気質が伝わってくるところだ。

所謂「顔じゃない」、「格も無い」なんて否定的な言葉で批判を贈るのではなく、試合内容を見た中で称賛を惜しまない姿勢と言えば良いのだろうか?


2019年秋にNOAHを「泥舟」と揶揄した藤田和之も、DRAGON GATE所属時代から「NOAH Jrの顔だ」と宣言したEitaも、最初は拒否反応を示す者もいたけれど、概ね好意的な態度を示すNOAHファンが多かったように私は思う。
(それは、過去に色々やらかしたファンが今の現場にはいないということでもあるのだけど、現場に行かないと中々知られないから、過去の恨みや悪行って恐い…)

その姿勢は他団体の選手にも向けられていたからこそ、NOAHファンが歓迎していた他団体の遠藤が早々にヒールターンしたことは、謀反で受けた衝撃の反動を増幅させたといえよう…。


①NOAHが『サイバーファイトフェスティバル2022』に触れた日

今回のバッドエンドで私自身驚いたのは、『サイバーファイトフェスティバル2022』で生まれた遠藤の因縁にNOAH側が触れて、取り入れた事だった。


遠藤哲哉とNOAHの関係性を語る上で、2022年に行われたサイバーファイトグループによる合同興行『サイバーファイトフェスティバル2022』の出来事に触れない訳にはいかないだろう。


DDTプロレスリングとプロレスリング・ノアによる対抗戦として組まれた6人タッグマッチで、当時KO-D無差別級王者だった遠藤は、中嶋勝彦の張り手を喰らってレフェリーストップ負けを喫してしまう。


試合後、DDT側にいた秋山準が「ちゃんとプロレスやろうぜ!」と怒りを露にしたことで、賛否渦巻く騒動にまで発展した。


その後、DDTとNOAHは同じサイバーファイトグループ傘下でありながら、遠藤と中嶋に関する再戦の話すらも御首にも出せない空気が流れていた。

観客やファン目線で見ていても、「何か緘口令でも敷かれたのだろうか」と疑りたくなるほどの異様な雰囲気…。


その後、遠藤は復帰を果たすも、自らの手でKO-D無差別級王座返上を宣言。

この失意と閉塞感を、DDTは中嶋の名前を出すことなく『KING OF DDT』を通じて打破し、団結した。


その一方で、NOAHは『サイバーファイトフェスティバル2022』の一件について、当時から特段何かを言及した訳ではないと私は記憶している。
2024年に発足したNOAHの別ブランド興行・『LIMIT BREAK』からDDTとNOAHの相互参戦が行われるようになって以降も、この件に積極的に触れる事はなく、対抗戦もドロドロした因縁よりスポーツライクを重視する者だった。


この因縁に、「めちゃめちゃにされた」という遠藤の一言を引き出す形でNOAHは遂に触れたのだ。
3年越しの復讐劇のプロローグとして…。


②反清宮・拳王⇒反NOAHへの転換

発足から現在に至るまでの『TEAM 2000X』は、OZAWAや大和田侑らが『ALL REBELLION』の清宮海斗や拳王に対して復讐心を燃やす構図が前面に出されていたと感じている。


しかし、過去の因縁で「NOAHにめちゃくちゃにされた」と復讐心を燃やす遠藤が加入したことで、『TEAM 2000X』は"対『ALL REBELLION』"だけではない、【反NOAH】の姿勢を打ち出すことにも繋がった。
今後、その矛先はNOAH内の選手にも間違いなく向けられる事だろう。


正直な所、今の『TEAM 2000X』の所業は、『ALL REBELLION』の受けっぷりによって成立している部分もあると私は思う。
他のユニットや選手を相手にした時に、今生まれているような支持や内容を生み出せるか不安はある。


今回の遠藤加入は、『TEAM 2000X』の対抗馬を『ALL REBELLION』に絞らないことに繋げた上、『ALL REBELLION』の復讐とは遠い距離にいながら「ノアを破壊する」と宣言した遠藤の持つ反NOAHの姿勢を体現することになったと言えそうだ。


③遠藤哲哉だからこそ発揮される、ナショナル王座の強み

何より、一番私が注目しているのは、無差別級のDDTで何度も頂点を極めてきた選手がNOAHの無差別級王座を獲得したことで、ヘビー級やJr.ヘビー級を問わず挑戦者を迎え撃てる環境が本格的に実現するかもしれないことである。
この事実に、私はワクワクが止まらないのだ。

ナショナル王座は無差別級のベルトであるが、Jr.ヘビー級の選手が挑戦する機会は少なかったように思う。
(『杉浦貴vs田中稔』、『拳王vs原田大輔』、『イホ・デ・ドクトル・ワグナーJr. vs AMAKUSA』、『ジャック・モリスvs大原はじめ』etc)

征矢学政権では近藤修司やタダスケとも対戦しているが、双方Jr.ながら馬力のあるパワータイプだった。


その為、遠藤政権では飛び技を駆使するJr.ヘビー級の選手とも対戦する展開が見れるのではないかという期待を私は抱いている。
(小峠篤司とか大原はじめとか見たい)


DDTの無差別級という舞台で遠藤哲哉という選手を見慣れてきた分、ファンや団体によって、彼の階級がヘビー級なのかJr.ヘビー級なのかというところは意見の別れる部分だと思う。
ただ、その曖昧さが良い意味で遠藤の持つ無差別級の強みを活かし、遠藤のナショナル王座戦線を形作る上で必要になるのではないだろうか?


まとめ

『TEAM 2000X』加入を果たした、遠藤哲哉のヒールターン。

超満員札止めとなった後楽園ホールは大ブーイングに包まれた。


でも、今回の大会を見ていて、『TEAM 2000X』の勢いと注目度の高まりは肌感覚で実感できた。

1.2新宿FACE大会で後楽園ホール大会のチケットを購入した時点では、南側正面席はまだ購入できたのだから、ここ数日で立見が出るまで完売するとは思わなかったのだから。

2020年のコロナ禍明けや、2021年の『N-1 VICTORY』公式戦、2023年に『中嶋勝彦vs宮原健斗』、『丸藤正道vsウィル・オスプレイ』がメインだった時も満員にはなったけど、ビッグマッチ後の後楽園ホールが満員になったのは(OZAWA効果やワグナーJr.のラストがあったとしても)素晴らしいことだと私は思う。


悪が蔓延る展開は『鈴木軍』が侵攻した2025~2016年を彷彿とさせるけれど、あの時とは明確に異なる点がある。

それは、他団体所属選手がユニット単位で襲来した『鈴木軍』に対し、ここ数年のNOAHにレギュラー参戦した選手やNOAHでデビューした若手を中心に『TEAM 2000X』は形成されているという事だろう。

ジャック・モリスやダガといったファン人気を築いていった外国人選手や、NOAH生え抜きのOZAWAや大和田には、ブーイングと同じくらい声援が飛んでいるのだから。
唯一、ブーイングを浴び続けるヨシタツを除いては…。


でも、今回の遠藤哲哉加入に関しては、『LIMIT BREAK』を通じてNOAHファンからの支持も高めていった土台からのヒールターンである。
私は、2015年の『鈴木軍』における金丸義信のヒールターンがフラッシュバックした。

2015年に全日本プロレスを退団した金丸は、同じく全日を退団した潮崎豪と共にNOAHにフリーランスとしてリターンを果たすのだが、2015年12月の大田区総合体育館大会で金丸が潮崎を裏切り、『鈴木軍』に加入を果たした、あのシーンと相似した雰囲気…。

団体所属ではないけれど、所縁があって裏切らないと思われた人物による謀反は、結果としてNOAHファン以外にも話題を拡げている。


でも、人生懸けてNOAHに上がる決意も、過去の出来事に一歩足を踏み出して動いた勇気も、遠藤の振る舞いには何ら言行不一致が無い。

今までのNOAHではあり得ない挑戦に満ちた航路を進み、何かが欠けてしまえば勢いも落ちてしまうような危うさを秘めている、『TEAM 2000X』という名の舟…。

DDT所属でありながら、退路を絶って舟に乗り込んだ勇気と気骨のある彼を、私は批判なんて出来ないんだよ。


The worst existence
(最悪の存在)

Dive like hell and destroy
(地獄のように潜って破壊する)


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