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1,354日間のフィルム~方舟の征矢学について私が語ること~


はじめに

2020.4.19

未曽有の新型コロナウイルス禍により、緊急事態宣言が発令された日本は、プロ野球やJリーグなどのスポーツが延期を余儀なくされ、ライブなどのエンターテインメントも中止に追い込まれていた。
この流れはプロレス業界においても例外ではなく、同年3月頃より予定されていた興行は中止に追い込まれ、かろうじて大会は観客を入れない配信形式でファンに届けられた。

いつコロナ禍が明けるのか、先行きも全く分からなかった混沌の時期に、プロレスリング・ノアで1人の男が乗船を果たす。

彼の名は、征矢学。


2020年4月、征矢が所属していたWRESTLE-1が無期限活動休止に突入。フリーになった彼は、新たなる戦場を求めるべく方舟マットに参戦した。
冒頭に記したのは、征矢がNOAHのテレビマッチに登場した日付である。


NOAH参戦当初より、NOAHの反体制ユニット『金剛』の一員として登場した征矢は、茶髪をユニットカラー同様赤色に染め上げ、コスチュームも赤を基調としたものに変更。
全日本プロレス時代、大森隆男と『GET WILD』で活動していた時のやり取りが『アメトーーク』の『プロレス大好き芸人』で弄られる程の天然っぷりな性格も、NOAHマット参戦時には一切封印して登場した。

必殺技のワイルドボンバーも【弾道】に改称するなど、過去のキャラクターを全て擲って乗船した征矢学の強い覚悟の現れは、強い信念を掲げる『金剛』の気風とこれ以上ないくらいマッチしていたと言えよう。


征矢が最初にNOAHマットで結果を残したのは、同年6月に行われた【GHCナショナル王座次期挑戦者決定トーナメント】だった。


全16選手参加のトーナメントを優勝した征矢は、当時ナショナル王者であった中嶋勝彦に挑戦。惜しくも中嶋に敗れたが、征矢の試合内容は、彼のGHC王座獲りがそう遠くない未来にあることを予感させるものがあった…。


本気で報われてほしい人がいる。

本気で報われてほしい選手がいる。

プロレスを見始めてから、そういう存在に時々出くわすことが増えてきた。
自分の好きとか嫌いとかを超越して、「どうしても結果が報われてほしい」と思わずにはいられない存在。
そうした視点で語ってしまうのは、相手に対して些か失礼な話なのかもしれないけれど。


征矢学がNOAHマットに上がり始めて、3年半以上の月日が流れた。
この記事を書いている2023年現在に至るまで、征矢のタイトル遍歴にGHCと冠されたベルトの名前は未だ刻まれていない。

勿論、その間に征矢へのチャンスが与えられない訳では無かったし、本人の試合内容が悪かった訳でも無いと私は思う。

前述したナショナル王座戦の後にも、GHCタッグ王座はパートナーを変えながら3回は挑戦していたし、直近のタイトル挑戦だとイホ・デ・ドクトル・ワグナーJr.とのナショナル王座戦は、後楽園メインに相応しい死闘だった(2023.2.5NOAH後楽園ホール)。


2023年3月には、全日本プロレスの世界タッグ王座を戴冠して、同王座で2度の防衛に成功した。


しかし、GHCまであと一歩が届かない…。

個人的に、NOAH参戦以降の征矢学を語る上でどうしても外せない試合がある。
2021.7.22NOAH後楽園ホールで行われたGHCタッグ王座決定戦だ。


当時、GHCタッグ王座を保持していた中嶋勝彦とマサ北宮の関係が突如として決裂。
同年6月に無観客試合で行われた敗者髪切りマッチを経て、新タッグ王座チームを決める舞台に征矢も名を連ねた。


征矢の対角にいた清宮海斗は同時期に不振を極めており、征矢も初のGHC獲得のかかった大一番。
運命の悪戯なのか、浮上のキッカケを何としても掴みたい2人が王座戦に加わったことで、中嶋と北宮の因縁だけでは計れないドラマが産み出されることになる。


新型コロナウイルス禍で声も出せない状況の中、思わずどよめきが漏れる程の激闘は、最終盤、【征矢の弾道が清宮に当たり、勝負が決する】直前まで手が届いていた。
だが無情にも、GHC戴冠は寸前のところで征矢の掌中から転げ落ちていく…。


このタッグ王座戦以降、辛苦は続きながらも翌2022年に武藤敬司越えやシングルリーグ『N-1 VICTORY』優勝、約2年8か月ぶりのGHCヘビー級王座戴冠を果たした清宮と、今現在に至るまでGHCを手にしていない征矢の対比は、ある種の残酷性を孕むターニングポイントになってしまった。


2022年の復帰直後にシングル6連敗と不振を極めていた潮崎豪が、シングルでの連敗を止めた相手も征矢学だった。
征矢戦の勝利を皮切りに、同年3月に行われた中嶋勝彦とのシングルにも勝利した潮崎は、勢いそのままに同年4月、GHCヘビー級王座を戴冠した。


2023年6月には、征矢自身の技名もイメージも変えて入った『金剛』が突然の解散。


2023年7月シリーズからは、コスチュームや髪から赤色が消え、イメージを一新させた征矢の姿がそこにはあった。
だが、この時から今現在に至る征矢の躍進劇が幕を開ける事になる…。


"NOAHの新たな柱"になった『N-1 VICTORY2023』

GHCに中々手が届かない征矢だったが、『金剛』解散後の2023年夏に大きな転機を迎えることとなる。
それは、『N-1 VICTORY 2023』だ。


征矢は、毎年夏に開催されるNOAHのシングルリーグ戦の2023年大会で、紛れも無く台風の目となった。

開幕前に行われたリーグ戦参加選手によるバトルロイヤル『N-1 RUMBLE』でいきなり優勝を果たすと、翌日の開幕戦ではリーグ二連覇中の中嶋勝彦から勝利する幸先の良いスタート。
そこから勢いは止まることなく続き、最終公式戦を終えた時点で潮崎豪と勝ち点9で並び、急遽Aブロック進出者決定戦が行われる所まで征矢は自身の立場を上げてきたのである。


この進出者決定戦に惜しくも敗れた征矢であったが、NOAHの武田有弘取締役はN-1で飛躍を遂げた征矢を絶賛した。

あと今年のN-1全戦ならびにカルッツの1日2試合を見て、征矢選手からもやり続ける勝つまでやるの精神を感じ、結果は残念でしたがその愚直な姿に感動しました。
本人はまだまだですと言うとは思いますが、ここにまたNOAHの新たな柱が誕生した瞬間でした。


2020年大会は2勝3敗、2021年は3戦全敗、2022年はエントリーすらされなかった征矢が、2023年のN-1では4勝2敗1分と大きく躍進を遂げた事になるのだが、飛躍したのは結果だけではない。
勝った試合も敗れた試合も、試合内容が安定して素晴らしかったのである。


2023年秋以降、征矢の支持率が以前にも増して高まっている事を私自身会場等で実感しているのだが、これはもう、N-1以降に積み重なった「今の征矢だったら何か起こしてくれる」という期待値の高さに他ならないだろう。

実際、2023.10.28の『ジェイク・リーvs拳王』が行われる以前より、タイトル戦線に絡みの無い征矢がGHCヘビー級王者(当時)のジェイク・リーと絡んだ際、征矢に対する会場の声援と拍手の量は桁違いだったのだから。


そして、2024.1.2NOAH有明アリーナ大会。
遂にこの日、征矢がNOAH参戦以降初となるGHCヘビー級王座挑戦が決まった。


2020.4.19のNOAHマット本格参戦から、有明ビッグマッチでの挑戦が決まった2023.10.28まで、既に1,288日の時が流れた。

タイトルマッチ本番の2024.1.2まで進めると、1,354日間だ。
征矢のポテンシャルを考慮すれば、GHCヘビー級王座初挑戦まで要した日数としては長かったのかもしれない。
それでも、観衆が今、征矢に期待を抱きながら声援を贈る姿は、雌伏と苦難の時期が決して無駄ではなかった事を証明している。


まとめ

征矢学が前哨戦で拳王から直接勝利した2023.12.2横浜武道館大会終了後、GHCヘビー級王座戦がメインイベントではない事が発表され、賛否が大きく分かれる事態となった。


試合順云々の話題はあったけれど、私の中で確実に変わらないと言い切れることが一つだけある。
『拳王vs征矢学』は、決して実験的なものなんかではなく、有明の大舞台でも今のNOAHが自信を持って切れるカードだという点だろう。

前述したように、今の征矢に対する期待感は確実に高まっている。
誤解を恐れず言うならば、征矢が有明ビッグマッチでGHCヘビー級王座戦という重要な舞台を担う姿は、金剛解散以前までなら考えられなかった。
NOAHを比較的観戦している私ですらそのように感じているので、この約半年間で自らのステージを飛躍的に高めた征矢の活躍と勢いは、決して見逃すことが出来ないものがある。


個人的には試合順とかよりも、征矢学が苦しみながらGHCヘビー級王座挑戦という大舞台までたどり着いた姿を、1人でも多くの方々の目に触れられて欲しいと願って止まない。


どうか、2024.1.2の日中、皆様の時間をNOAHにください。
配信でも現地でも、見てほしい一戦なのです…!!!!


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