楽しい錯覚"OFS gallery 吉田ユニ THE MOMENT"
「結構好きなんです」
ギャラリーを訪れた際に、関係者の知り合いがいたので思わず告白してしまった。
訪れたのは北里大学の近くにある、OUR FAVOURITE SHOPで店内にギャラリーが併設されている。
このSHOPは、クリエイティブデザイナーの植原亮輔氏、渡邊良重氏によるキギ、bluestract,丸滋製陶が共同で立ち上げた。店内には彼らが手掛ける陶器を始めとした「KIKOF」,アパレルの「CACUMA」,アクセサリーや雑貨などが購入できる。
そしてOFS galleryでは現在、吉田ユニ氏の新作展示会「THE MOMENT」が開催されている。彼女はファッションブランドや化粧品の広告、アーティストのビジュアルも多く手掛ける。
私が彼女を始めて知ったのは、2015年に発表された星野源氏のアルバム「YELLOW DANCER」のCDジャケットだった。
本やフォーク、文房具などで構成された舞妓のようにも見えるシルエット。これは当時ジャケット大賞を受賞している。日常にありふれたリアルなものばかりを寄せ集め、全く別のモノに見せる。このような手法は過去にもあったが、彼女は私たちに楽しく想像的に錯覚を起こさせるのが得意だ。決めつけではなく、どうぞ好きに錯覚してください、と言わんばかりなデザインばかりだ。
彼女の作品が人々を魅了する理由を考えてみた。
1.リアルが別の何かに見えるユニークさ
彼女の作品は全て実物のモノで成り立っている。植物や果物、人物が見に纏うものが繰り出すあり得ないような姿かたちは、隅々まで本物なのだ。CGや画像の加工が素人でもできるようになり、自然にそれらを受け入れてしまっている現在において、そのリアルさは異様で潔い。
CGでなし得ず、彼女の作品にあるものは何なのか。それは自然界のもので構成する形態の不完全さだ。左右対称でなかったり、色むらもある。植物の自然な曲線を生かし、安全ピンのようなくるんとしたフォルムを形づくりながら、よく見るとひとつひとつが異なる形状だ。このようなあり得ないリアルな状況を楽しんでいる。
2.シュールとポップが両立する色彩
彼女のデザインに欠かせないのが色彩だ。自然界にあるものを生かした色彩は彼女の場合、よく表に見えてかる花や葉のみならず根や土も露わになっている。それだけだとややシュールになりかねない。それらを楽しくポップに仕上げる色彩を、彼女は絶妙に組み合わせているのだ。厳密に言うとポップであり、ときにエレガントでシックだ。色彩全体でメッセージを訴えかけている。彼女が手がけた星野源氏の「family song」のMVがまさにそうだ。彼が家族のお母さんに扮し、昭和の民家で歌うその空間が全てピンクに染まっている。その優しいピンクの表情は家族の温かさ、お母さんの優しさが込められている。
3.その瞬間のみの自然美と質感
花や果実、それら植物は一瞬足りとも同じ姿を見せない。成長したり、熟れたり、枯れたりする。その瞬間の表情や質感を彼女はデザインとして封じ込めている。柔らかな根が美しい曲線を生み出したり、花が瑞々しい表情を見せる。
彼女の作品はいつも楽しい錯覚体験をもたらしてくれる。