重なるハコに生まれる隙間"チャコット代官山本店"
「バレエの先生がチャコットのものがいいって言ってる」と娘が言うたびに、安くないレオタードやらシューズやらを買い続け、ここ数年シュルシュルとチャコットにはお金を吸い取られている。
昨年銀座店の店員から渋谷から本店が代官山に移転するお知らせがあった。渋谷本店は何ともクラシカルな外観でそこだけパリの街のよう。40年以上もバレエを学ぶ人達にとって憧れの場所であった。私がバレエを習っていた子どもの頃は正に聖地であり、渋谷本店に行くことは大イベントだった。
移転した代官山本店の建物は、元々2019年にファッション、食、デザイン、アートが融合し憩う場となる複合施設"KASHIYAMA DAIKANYAMA"として誕生した。しかし、コロナも合間ってか、昨年オンワードは売却を決め、一時は賃貸募集もしていた。
建物の設計は佐藤オオキ率いるnendo,インテリアはonndoである。新たな価値創造を求めて作られたオンワードグループ渾身の空間だったが、わずか2年で幕を閉じてしまった。オンワードグループ傘下でバレエ界のトップブランドであるチャコットが再びこの場所でブランドの世界観をショップやスタジオ、カフェなどの複合用途を通じて発信していく。
1.南向きに傾斜する丘状の配棟
この建物はハコを少しずつずらしながら重ねられている。設計者曰く、「小さな丘」をイメージしたようだ。日影を考慮して北向きにセットバックする建物はよくあるが、南向きに何層もの開口とテラスが設けられる配棟は何とも贅沢である。前面道路の幅員も広くて、街並みの顔作りとしても印象的だ。代官山という場所の文脈もよく読み解いている。
2.緑とガラスで楽しむシークエンス
外部のずれたハコ同士は階段で登ることができる。ジグザグと階段とテラスが繰り返し登場する。テラスの所々には植栽が配されていて、上下に移動する途中に、また建物内部からもガラス越しに緑を楽しむことができる。階段のガラス手摺もかなり繊細なディテールであるため、その開口部と植栽の関係性を遮ることがない。
3.上下の用途がゆるく繋がる
結局当初の建物用途から若干使われ方が変わってしまったため、デザイン意図が現在の用途とピッタリハマっている、とは言い難いが‥。ただチャコットブランドの世界観を食やスタジオプログラム、ウェアやヘアピンに至るまで、この建物がうまく創出している。建物の特徴であるずれたハコの隙間に入る日光や部分的な吹抜け空間によって、重なるフロアの用途がそれぞれ滲み出し、融合するためである。全体に洗練されていて、他よりちょっと値段が高いけどそれを身につけると上手く踊れるのではないかと思わせる雰囲気、それらが空間全体に広がっている。
いつまでシュルシュルとこのチャコットにお金を吸い取られ続けるのだろうか。店内に入り、あの優しいピンク色のロゴデザインやエレガントなレオタード、トゥシューズのリボンを見ると抑制が効かなくなる。
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