浮遊する神鹿"GINZA SIX 名和晃平 変容の庭"
会社にいるおしゃれリーダーにどこで服を買っているか尋ねたところ、GINZA SIXという回答だった。
GINZA SIXで買い物をする、そこから私にとってある種のステイタスとなり、いつか誰かに「あーこれ、GINZA SIXで買った」って言いたい、と思うようになった。
GINZA SIXといえば華々しいオープン以降、コロナ禍も経験し、大々的にテナントが撤退し入れ替わりを遂げている。
GINZA SIXは2017年、松坂屋の跡地に誕生した。外観は谷口吉生氏、インテリアはグエナエル・ニコラ氏が手掛けるこの商業施設は、銀座を、東京を代表する最先端の商業施設として、海外からの観光客をはじめ長く銀座を愛する人々を迎えてきた。
外観も見どころ満載なので別の機会に触れたいが、内装で圧倒的な存在感を放つのが吹き抜け空間だ。デパートやショッピングモールなど店舗が建ち並ぶ様子がわかる吹き抜けを設けることはよくあるが、この空間をどう取り扱うかでその建物がどう在りたいかが理解できる気がする。
これまで草間彌生氏や塩田千春氏など世界的に評価の高いアーティストが、この吹き抜け空間のインスタレーションを手がけている。
この空間を見れば、今の日本が置かれている環境や発信するメッセージが読み取れるのではないだろうか。
1.隙間から臨む神鹿を追い求めて
名和晃平氏の肩書きは「彫刻家」だが、その範囲を超越する表現、活動が現在注目されている。
このインスタレーションは、吹き抜けの下から見ると底面が平らになっていて、小さな島々を海底から覗くような感覚だ。エレベーターを上がっていくと徐々にその全貌が明らかになっていく。島々の上部には「エーテル」と呼ばれる水滴状の雫が浮遊する。その中央に鎮座するのが、彼の代表作と言える「White deer 神鹿」だ。これは東日本大震災後に、震災復興のシンボルとして宮城県に設置されたのが始まりだ。
鹿は古来より「神使」「神獣」として神道などの信仰の中で親しまれてきた。その後、紀尾井町ガーデンテラスや明治神宮にもこの神鹿は登場している。
ここでは上層階に行って初めて「神鹿」の姿をはっきりと捉えることができる。そんな時間軸も含めたインスタレーションだ。そして周囲に散りばめられた、メレンゲのお菓子のような、発泡ウレタン断熱材のようなモコモコした白い塊が何とも可愛い。
2.表も裏も銀座を語るデザイン
内装デザインを手掛けたグエナエル・ニコラは、この壮大なスケールの売り場が単調にならないよう銀座の裏の路地をイメージして通路がジグザグになるようにデザインしたと言う。そして世界中から訪れる人に日本を感じてもらい、銀座に慣れ親しんだ人たちにも共感してもらうデザインを目指したそうだ。「日本」を空間で表現する場合、海外からの反応を意識するがあまり、やや誇張された違和感のある、残念なデザインになってしまうことが多々ある。
ここでは、日本古来の伝統を受け継ぎ、外から運ばれた文化を広く受け入れ、独自に発展してきた銀座の洗練された意匠がデザイナーにより体現されている。
吹き抜けの天井には行灯を模した和紙をあつらえ、階段の手摺には竹を想起させる格子のデザイン。それらは上質でさりげなく、エスカレーターの裏側まで周囲の関係性を保ちながら緻密にデザインされている。具体的なコレ、というより空間全体が銀座を物語っている気がする。
3.ショーウィンドウもアートが満載
GINZA SIXは吹き抜け空間以外にも様々な所でアートが楽しめる。買い物をせずして、買い物をしたような気になる満足感がアートによってもたらされる。そのひとつが地下2Fのエスカレーターを降りた正面のショーウィンドウだ。これは「胃袋の旅」というタイトルの下田昌克氏によるインスタレーションだ。恐竜が特定の柔らかいシダ植物を好んで食べる偏食家だったことから、恐竜の胃袋を通して見える豊かな自然の光景が描かれている。ガラスに施された植物の絵柄は現地で創作したものだ。アイシングクッキーのような繊細な絵柄は、地下フロアで繰り広げられる、手が掛けられた美味しいものたちの競演を物語る、シンボリックな存在だ。
GINZA SIXはどんな理由で訪れようとも、今後も人々を圧倒的に魅力し、クールで落ち着く場所であって欲しい。