機能を持たない建築美"内藤廣 紀尾井清堂"
noteを始めてから他の人の記事を見て、行ってみたいと思ったのが、紀尾井清堂。
紀尾井町周辺はたまに仕事でも行くことがあったが、なかなかゆっくり街歩きすることはなかった。
こんな存在感のあるファサードであれば、通れば必ず覚えているはずだと思う。
この建物は財団法人の倫理研究所の施設で、内藤廣建築設計事務所の設計により2021年に竣工。
内藤廣氏は博物館や美術館を多く設計し、とらや赤坂店など商業空間も手がける。個人的には娘がいわさきちひろ氏を好きなことから訪れた、東京と安曇野にある美術館が好きだ。周辺環境や従前の利用形態をよく読み解いた、優しく美しい建築が特徴だ。
紀尾井清堂の斬新なところが、クライアントが設計者に対して、用途未定な建物として設計を依頼した点だ。用途や制限に縛られないからこそ、これだけ美しい建築が出来上がったと思うし、そこに機能を持たせてもなお、成立する空間になっているのは内藤氏の力量だろう。またそれを予測して頼んだクライアントも素晴らしい。
少し前まで「奇跡の一本松の根」展が開催されていた。東日本大震災で被災した陸前高田で、奇跡的に残った一本松。その後保存作業が行われ、根元部分が1階に展示された。部屋の四方いっぱいに広がる力強い根っこ。あの時の一本松は多くの人々の心の拠り所となった。表に見えない根元部分が津波に耐えるべくあの一本松を支えていたとは感慨深い。見る人それぞれに色んな思いが湧き上がってくる、展示であった。
1.コンクリートが浮遊、超能力的外観
外観はコンクリート化粧打ちのキューブの表面を覆うようにガラススクリーンが施されている。コンクリート部の最頂部四方から鉄骨が持ち出されガラスを支持しているため、ガラスは方立がなくいわゆる透明な膜でガラス工芸品にも見える。その中でコンクリートキューブは浮遊しているかのように見える。またこれだけでは無機質になりがちな外観部にインテリアをチラ見させる木の階段があり、何ともにくい演出だ。
2.動線そのものが建築美
内部は中央部分が吹き抜けになっていて、上階へは吹き抜けを囲む回廊と鉄砲階段で構成されている。博物館などに見られるまとまった平面空間は2階のみで、空間の仕切りが一切ない。結果的に繰り返し出てくる階段と回廊のシークエンスを楽しむわけだが、見えてくる景色全てが美しい。要素が極限まで削ぎ落とされているが、床・壁・天井の木板が温かくも力強い印象を空間に与える。
そして連続する手摺の縦格子は、よく見ると高さの異なる高さの2種類の格子が2層のレイヤーで構成されている。整然と見せるためのディテールが考え尽くされている。
3.モダニズム建築へのオマージュ?
天井には9箇所のトップライトが設置されている。縦横に区切られたグリッドには空に吸い込まれるようなコンクリートによる奥行きある筒状の穴が開けられている。ラトゥーレットの修道院を思わせるような、国立西洋美術館を思わせるような、先人達の作品へのオマージュともとれる意匠。高さもあるため空間に優しく光が届いている。
あの回廊や階段は機能を持たないという前提で作られたわけだが、個人的には1階部分で見た展示の内容を上層に進む中で、回顧し、味わい、考える時間となった。
これからの活用方法も楽しみだ。
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