細部への労わり"ゼンティス大阪"
たまにある大阪の出張で宿泊先をいくつか試している。
最近ではラグジュアリーホテルブランドが展開する、都市型コンパクトラインのホテルが増えている。
その中でも「ゼンティス大阪」は群を抜いている。
パレスホテル系列のこのホテルは、2020年7月に大阪の中心街堂島浜に誕生した。
ホテルのコンセプトは下記の通り。
インテリアデザインを手掛けるのは「タラ・バーナード&パートナーズ」。イギリスを拠点として、four seasonsやkimptonなど世界中の一流ホテルを手掛け、評価されている。そんなタラ・バーナードのデザインに手頃な価格で触れられるのが、このホテルだ。
彼女はこのホテルでローカリティを重視し、ありふれた居心地のよい空間ではなく、地元のアーティストや職人との協働によって、インテリアでも土地柄を楽しめる工夫を惜しまない。
またそれは高度なデザインセンスとディテールへのこだわりによって、スタイリッシュで地的な空間になっている。
中心街の大通りを入り、程よい植栽に迎えられアプローチを進むとそこには、穏やかな空間ぎ広がっていた。
1.レイヤーで空間が緩やかに
建物内部のフロントを過ぎると2階へと続く階段が現れる。その脇に客室へ行くエレベーターがあり、奥には宿泊者が利用できるロビーラウンジが広がる。ドカンとゴージャスなロビーラウンジが広がる従来のレイアウトとは異なり、決して広くない都市型ホテルにおいて、階段が平面的にも垂直方向にも緩やかな仕切りとなって空間に変化をもたらしている。
そして注目すべきは、まとまった壁や天井が存在しない。天井には木のルーバーが並べられ、エレベーターホールの壁は一面造作棚が設られている。ロビーラウンジの庭につながる開口部も柔らかなレースカーテンが緩衝帯となっている。つまり、建築にインテリアのレイヤーが重ねられることで、空間自体が曖昧になり、壁や天井の存在がなくなる。
ライティングも絶妙で、棚ひとつひとつが優しく浮かび上がり、実際よりも奥行き感を感じる。
2.色みとフォルムが練られた客室
大阪の中心街に位置するこのホテルでは、観光やビジネス利用など宿泊用途も様々だ。ただ日中忙しく外を出歩き、とにかく客室ではゆったり過ごしたい人が多いだろう。
客室は共用部からより一層穏やかな空間だ。温かい色みに肌触りのよい質感のリネン。ソファベンチやテーブル、スタンド照明のフォルムはどれも心をホッコリさせる。ファブリックや木、マットなメラミン、金属などの素材が同じ空間にどれも主張せず共存している感じ。
そんな中で「縁」をモチーフとした墨絵の力強いアートワークが細やかなアクセントになっている。
いくつかの素材やデザインモチーフを決して広くない空間に組み合わせて使って、これだけの落ち着きが感じられのが、タラ・バーナードの手腕なのだろう。
2.肩ひじ張らない優雅さ
このホテルの真骨頂は先程の階段を登った先にある、その名も「UPSTAIRZ」、夜はバーにもなるオールデイダイニングだ。
ちょっと日本ではないような洗練された空間だ。デザインに目が行きがちだが、テラス、ラウンジ、バーカウンターをはさんで、個室、ダイニング、オープンスペースが合理的にレイアウトされている。
そしてこちらでは、ミシュランシェフによりこれからの大阪を思いはぐくむ食文化が発信されていく。
朝食は、前日食べたお好み焼き、アルコールを含む胃を優しく労わる食事であった。
食事をしながら改めて見ると、コロンとしたフォルムに無駄のないインダストリアルなテイストの照明器具、床に敷き詰められた東欧も感じるタイル、美しいラインの椅子やテーブルが計算し尽くされ、配置されている。
全て細部まで労わりが感じられる、ホテルだった。