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アートでよみがえる前橋"白井屋ホテル"

まだ寒かった時期に前橋を訪れた。
高崎駅までは新幹線があっという間で駅周辺も県内のお土産が揃っていたり、飲食店も豊富にある。地元住民の賑わいと活気を感じる。
一方その高崎駅から両毛線で数駅の前橋駅は、県庁所在地でありながら駅周辺は閑散としている。
しかしながら、そんな前橋にアートを起点にしたスポットが続々と誕生し話題になっているのをコロナ禍に知り、いつか行ってみたいと思っていた。

前橋のアートの街としての発展に大きく影響している人物がメガネのJINSの代表で前橋市出身の田中仁氏だ。
彼は2014年に田中仁財団を設立。前橋市をはじめとする群馬県の文化・芸術の振興、起業支援等の地域活性化のため様々な活動を行っている。財団を設立後、廃業して廃墟となった白井屋ホテルの話が持ちかけられたと言う。


ホテルロゴ

建物の設計は田中氏が以前から交流のあった藤本壮介氏に依頼した。前橋の老舗名旅館であった白井屋は2008年に廃業。元の旅館をリノベーションした建物部分をヘリテージタワー、増築した緑の丘状になった建物をグリーンタワーとし2020年に開業。アートと建築、食を堪能できる宿泊施設であり、絹産業で日本近代化の先駆けとなった前橋の地に新たにイノベーションを巻き起こす起爆剤的な存在とも言える場所だ。

1.街に馴染む緑の丘

商店街側の通路
グリーンタワー入り口
グリーンタワー外観

開業時はよく媒体で取り上げられた、グリーンタワーの外観。緑の丘は内部からの開口部やヘリテージタワーとの貫通通路がポツポツとくり抜いてある。裏側の馬場川通りへ出る通路は、飲食店など建ち並ぶ商店街方面へとつながっている。頂部や中腹には奇妙な小屋が見える。小屋の中は宿泊者のみが閲覧できるアート作品があったり、サウナを楽しめるスペースもある。
宿泊者はてっぺんにあるアートを見に緑の丘を登る非日常の体験ができ、街の人々は絵本の中のどこの国でもない小山の景色がギュッとヒューマンスケールにリサイズされたフォルムを日常として楽しむことができる。

2.光とグリーン、人を集める街のリビング

吹き抜け客室への螺旋階段
the Lounge
レアンドロ・エルリッヒの作品

以前は旅館の客室だった建物の中央部分は、大胆にくり抜かれ吹き抜け空間に改造された。結果的にこの吹き抜けは人々と緑と光を呼び込むことに成功している。
1階は朝から夜まで楽しめるオールデイダイニング。私はランチをいただいたが、群馬の野菜やポークが堪能でき、デザートはホテルのパティスリーのボリュームあるケーキ。
躯体のシンプルな構成でありながら居心地が良いのは、アートが散りばめられていることと、上部から降り注ぐ光によってグリーンが生き生きと光合成をしているからだろう。国内外の遠方から、また地元の人々が自然とこの空間に集まってくるのは納得だ。

2.アートが建物の息を吹き返す

ローレンス・ウィナーの作品
リアム・ギリックの作品
杉本博司の作品
安東陽子の作品

このリノベーションはアートのためのリノベーション友言える。ギャラリーで見るアートとは異なり、建物の構造を生かしながらアートが創られ、また建物は最大限にアートを引き立てる役割を果たしている。これはファサードのキャッチーなローレンスウィナーのグラフィックや吹き抜けの梁をつたうレアンドロエルリッヒによるライティングパイプなど所々にその意志が見られる。これは田中氏の想いに賛同した建築家やアーティストとの信頼関係が生み出したものであり、この場所でしか体験できない唯一無二な産物だ。これを見に是非遠くも近くもない前橋に足を運んでほしい。

今回は前橋に宿泊する余裕がなかったが、次回は大好きなジャスパーモリソンがデザインした客室に泊まってみたい。

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