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構造と表層の先駆者"東京都現代美術館 ジャン・プルーヴェ展"
今年の秋は東京の至る所で、世界中の近代椅子を見ることができる。
なかでも東京都現代美術館で先日まで開催されていた"ジャン・プルーヴェ展"では、彼のものづくりへの信念が椅子のみならず建築に至るまで思う存分味わうことができる。
ジャン・プルーヴェは、1901年にフランスのナンシー派の画家である父と音楽家の母の間に産まれた。金属工芸家としてキャリアをスタートさせたが、スチールなどの素材を用いた実験的な取り組みを仕事へと転換し、家具から建築まで境目のないクリエイティブなアウトプットを生み出し、それらはその後の家具、建築界に多大な影響を与えることとなった。
今回の展示会では実験的な取り組みから家具、建築に至るまでの約120点を図面やスケッチと共に展示している。椅子の展示も圧巻だったが、原寸の建築物や試行錯誤の様子が垣間見える実験的なプロトタイプもあり、見応えがある展示だった。
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ジャン・プルーヴェは特に構造部分が美しい。それは全てのもの作りを構造からスタートさせている。椅子から始まり、そのスタンスを建築に繰り広げていく、その変遷を見ていきたい。
1.建築に通ずる組み立て式の椅子
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「家具の構造を設計することは大きな建築物と同じくらい難しく、高い技術を必要とする」と彼が残した言葉にあるよう、正に高い技術を持って家具が設計されている。彼のアイコン的な存在である、後ろ脚が特徴的なスタンダード・チェアのモデルとなったメトロポール・チェアは、スチールから木、そしてアルミニウムへと素材を替えながら長年研究され続けた足跡を見ることごできる。
戦争中の資源が枯渇していた時期には木材で構成されて組み立て式ウッドチェアも作られ、それらのパーツが分解され展示されていた。工業生産化に向けて巧妙に、シンプルにパーツが形成それているのがよくわかる。
メトロポール・チェアの後ろ脚は、荷重が最もかかる座面との接合部が太くなっていて、その上下に向かって細くなる。この合理的な形態はのちの建築に用いられる構造体の考えかたの原点となる。
また彼が椅子に触る時に後ろ脚に寄りかかって座るのが好きだ、というのもこの構造が生まれた理由のひとつだと思う。
2.構造と表層を建築のスケールに
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彼の構造と表層のアプローチは、建築へと発展していく。
表層については、アルミパネルのモジュールを用いて玄関扉や開口部を設けたもの、通風可能なブリーズラインなど建築物に必要なあらゆる機能を備えたパネルが並んでいる。細かく円形が幾つも抜かれたパネルはやや近未来的な印象も受ける。
構造体は、椅子の後ろ脚をヒントにポルティークと呼ぶフレームを開発する。ポルティークを建築物の中央部に配列することで、空間の自由度を高め、ファサードも自由に構成できる。
展示会ではこのポルティークを始め、8×8住宅など実寸での展示があり、その空間構成をよりリアルに体感することができる。
今ではプレハブ住宅は一般に普及しているが、1950年代に既にここまで確立されていたことに驚いた。組立解体可能であり、意匠のバリエーションも持ち合わせた彼のプレハブ住宅の提案は現代で言うサステナな取り組みをかなり先取りしていたと言える。
3.彼の世界観を表すカラーパレット
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彼を語る上で欠かせないのが、「アトリエ・ジャン・プルーヴェ」で使われたカラーパレットだ。深みのある赤やグリーンからベージュやモスグリーンなど当時のアール・ヌーヴォーの影響を受けていることがわかる。自然環境に存在する色みが多く、この色彩感覚は画家であった父の存在も大きいだろう。この色彩感覚こそイタリアとも北欧のそれとも異なる、フランスな情緒的な雰囲気を家具に纏わせている。
もうひとつ彼は家具のカタログのグラフィックデザインにも力を入れている。それは広告や説明的なツールに留まらない、美的感覚とこだわりが感じられる。
この展示会を通じて、彼が生涯何をやりたかったか、後世に何を残したかったがよくわかる。そして彼に認められ、彼の意志を継いでいるのが、私の大好きなレンゾ・ピアノだとわかり、ちょっとつながった気がしてスッキリした。