"OGAWA COFFEE LABORATORY下北沢"
ごちゃごちゃした下北沢の街が大学時代から大好きだった。
あの頃地上を走っていた小田急線と異様に狭かった下北沢駅のホームは地下化され、駅周辺と全長約1.7kmの線路跡地は「下北線路街」として、いくつかの開発が進行している。
その一つである「reload」は、東下沢との間に位置し、店主の顔が見える「個店街」をコンセプトに、低層分棟式で24棟の区画が東西に延びる敷地に配されている。
設計はジェネラルデザイン、ランドスケープはDAISHIZEN(SOLSO)ということもあり、所々に設けられた中庭も含めて緑が身近に感じられる演出となっている。
その区画に入っている「OGAWACOFFEE LABORATORY下北沢」は観光客も含め行列を成していた。
ここは京都に本店を置く老舗珈琲店「小川珈琲」の新業態として、「体験型ビーンズサロン」をテーマに展開される、焼く、挽く、淹れるの美味しい珈琲を味わうためのメソッドが学べる「実験室」のような場だ。
美味しい珈琲を飲むだけでは満足できなくなってきている、そんな人々のマインドを汲み取り、そのプロセスを知り自ら体験ができる場が作られた。そこには体験を通じてより深く珈琲を理解できる工夫がなされている。
1.削ぎ落とされたラボラトリー空間
デザイナーの関氏は先行してオープンした同業態の桜新町店も手掛けている。国内に幾つか拠点を置く他、ベルリンなど海外での活動も積極的で国内外で評価されている。
彼が解釈して表現する実験室のデザインが絶妙だ。
学生時代に記憶する実験室は無機質でクリーンな空間。
それは安全にかつ実験を適切に状況観察ができるような機能性も持ち合わせる。
その雰囲気を保ちつつ、サイザル材を用いた床材や和紙を扉に貼ったシェルフなどさりげない温かみを両立させている。
コロナ禍のオープンということもあり、アクリル板もトータルでデザインされ、手元はじっくり観察ができるよう隙間が設けられてられいる。
2.コーヒードリップのライブ体験
まずカウンターに立つと自分の好みに合わせて選べるように約50種類の豆からなるBEANS LISTにある、豆の特徴がポジショニングされた「フレーバーコンパス」を参考にできる。しっかりして苦味が効いたフレーバーが好きな私が選んだのは、その名も「ストロングブランド」。コロンビア、ブラジル、エチオピア、グアテマラのブレンドで焙煎度はモデレットリーダークだそうだ。
いつ焙煎したか、状態がどうかなど店員ご説明してくれる。
その後はいよいよハンドドリップ。最初にひと回しお湯を注いでしばらく蒸らす。
その後お湯を注ぎ足してゆくと、豆が水分を含みムクムクと成長するように膨らんでいく。挽きたてでないとこの光景をなかなか見ることへ出来ず、私はこのムクムクに見入ってしまう。
まさに珈琲が出来上がる様をライブで体験することができる。
3.店員との珈琲を介した交流
私はカフェやレストランで積極的に店員さんと話したりする方ではない。一人でまったりしたい時もあるし、質問したいことがあっても面倒くさいと思われたらちょっとヤダな、など考えやり過ごしてしまうこともある。
ここでは1対1のコミュニケーションが自ずと作られ、家ではどんな風に珈琲を入れているか、どんな珈琲が好きかなど自然に珈琲に関する話題で盛り上がってしまう。
私は案外ハンドドリップ式でなく、喉にクッとくるイタリアンコーヒーも好きなことなど赤裸々に語ってしまったが、珈琲通の店員はそれぞれですよね、ともっと上位概念の珈琲愛で包んでくれている感じが印象的だった。