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デザインと作品の棲み分け"佐藤卓 TSDO展〈in LIFE〉"

連日の暑さに狼狽えてしまいそうになるが、最終日に何とか滑り込んだ銀座のggg(ギンザ グラフィック ギャラリー)。

グラフィックデザイナーとして多くのブランドやパッケージデザインを手掛ける佐藤卓氏の展示会だ。ここでは佐藤氏が率いるTSDOの「仕事」してのデザインとこれまで自発的に発表し続けてきた「作品」の両面が見られる。その2つは公と私、外と内、客観と主観、他発と自発、デザインとアートとして捉えられながらも相互に影響し合っている。
見る側がその関係性を各々想像できる展示会であった。

ggg

 https://www.tsdo.jp/portfolio.html


1Fの作品展示


1.デザインの回顧としての作品

MILK


MILK

我が家ではほぼ1日1本息子が消費する「明治おいしい牛乳」。スマホの充電と等しく毎日途切れてはいけない存在。そんな見慣れたパッケージがずらりと並ぶ中央に、牛乳パックの上端部が大きく突き出している。使い勝手や製作の工程で形作られた折り目や凹部、底面では記号らしきものもある。ここではクライアントから依頼を受けた仕事としてのデザインパッケージを改めて見つめ直し、機能としての形態をも自身の作品に表現として取り入れている。佐藤氏自身も商品として旅立ったこのデザインに愛着を持っているのだろう。彼は他発のデザインを振り返ることで、自発的な創造を生み出している。

2.デザインと作品へのアプローチ

デザインあ


2つの実験

昔娘とよく見たEテレの「デザインあ」。この辺りからEテレは民放とは一線を画す面白い取り組みの番組が増えていったように思う。日本の伝統的な家紋が描かれるプロセスを再現したり身の回りのデザインを観察したり、大人が見ても楽しい番組だ。子ども向けの番組でありながら色使いやデザインは従来の子どもっぽいものではなく、子どもの視点に立ちながら、容赦のない本気のデザインをしている。子どものうちから高いレベルのデザインに触れる希少な機会だ。
一方「2つの実験」はひらがなをそれぞれの文字が持つイメージに合わせてカーヴさせた紙の積層による立体作品だ。
デザインと作品、彼が作り出す2つに共通するのは、事柄を丁寧に読み解いていることだ。そしてひらがなを客観的に表すデザイン、主観的に表現する作品、とアプローチは違う。デザイン思考を子どもたちに伝えるための手段として、ひらがなをデザインに組み込み、一方でひらがなを音やカタチを感覚的にに3次元化する。同じひらがなでも2つのアプローチを辿ることができる。

3.デザインに込められた思い

PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE"ANIMALS"
MATSUZA DESIGN

彼はブランドのロゴやビジュアルも多く手がけている。ISSEY MIYAKEの特徴的なプリーツを用いて動植物、食べ物に見立てたデザインは圧巻だ。発色がよく変幻自在に形が変えられる生地の特性を生かして、植物の繊維や動物の毛並みを表現している。
佐藤氏はクライアントの商品やブランドを熟知している。その上でデザインが目立ちすぎないように、自我をデザインに反映しないようにしているという。商品やブランドの思想を最大限に引き出すのが彼の仕事だ。

身の回りのチューブ、瓶の調味料など必要を満たして、日常に溶け込むデザインばかりだ。彼の作風というものは見当たらず、えっ、普段よく見るあれもこれも同じ人なの、というくらい私たちはそれらを自然に受け入れている。デザインは特別なもの、カッコいいものではなく、生活にあたり前にあるものだ、という彼の考えを体現し続けている。


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