図面で読みとる"デザインギャラリー1953 イームズの正体"
名作椅子の図面やスケッチは、そのわずか一部を参考資料として家具の展示会などで見ることができる。
松屋銀座のデザインギャラリー1953で行われていた「イームズの正体」。
ミッドセンチュリーの巨匠チャールズイームズは、多数の名作家具を世に生み出した。ミッドセンチュリーを知らない人でも、彼がデザインした椅子をカフェや雑誌等で一度は見たことがあるのではないだろうか。
そして、彼のデザインや考え方は後の家具デザインに多大な影響を与えた。
今回はそのイームズデザインの文化財的図面の保管を託された武蔵野美術大学名誉教授の寺原芳彦氏の図面提供の基、原寸の図面が数十点、日本で初公開された。
イームズの家具の中でも、材質や形状、構造などにおいてその進化の過程がわかる代表的な椅子とテーブルの図面が今回展示されている。
図面だからこそ見えてくるものを宝探しのように探すことができる、展示会だ。
1.表に見えない接合部のディテール
か図面作成ソフトがなかった時代に、どうやって手書きであの優雅な曲線を描いていたのだろうか。複雑な三次元の形状を表現していたのだろうか。と近代家具の展示会へ行くたびにシンプルな疑問が湧く。
この展示会ではその答えがわかる。
手書きだがとにかく精巧だ。
ディテールの図面が多く、寸法などの情報量が多い。曲げ部分もどの点からの円弧なのか読み取れるのもおもしろい。
そして表には見えない座面と脚などの接合部のディテールが見られるのが貴重だ。
イームズの家具はワイヤーメッシュチェアの脚部でエッフェル塔に似てる「エッフェルタワーベース」に代表されるよう、軽く繊細に脚部を表現することが多い。
細い脚で安定的に荷重を支えるために考えられた構造だが、それに至った苦労も図面から何となく感じる。地面に接する部分の脚の受けとなるグライズという部品にどのように取り付くか、完成した時、いかに美しく見えるかもよく計算されている。
そんな技術や意匠、それらを実現する細かい配慮が図面に盛り込まれている。
2.組み立てプロセスが見える
シェルチェアなどのポップな印象とは異なり、重厚で上質感を与え、いつかは自宅で使ってみたい憧れの椅子が「ラウンジチェア」だ。
プライウッド(成形合板)を発表して10年以上経った1956年に発表し、プライウッドを活用した椅子の集大成と言える。
身体が触れる部分は皮革で脚部はアルミダイキャスト。
大量生産が必須条件だったため、ノックダウン式(組み立て式)で構成されている。
図面ではそれぞれのパーツがどのように構成され組み立てられるかがわかるよう分解された状態で図示されている。重厚な印象のラウンジチェアがノックダウン式、と聞くとちょっと驚くが、よく見るとボルトやプレート部が表に見えてこないよう注意深く設計されている。
その上、ボタン留めのクラシカルで優雅な表情が手仕事感を感じさせる。
3.実物を見たときの気づき
ギャラリーに隣接して、図面で紹介された椅子や関連書籍が展示されている。
図面を見た後に見ると、馴染みがある椅子も見えないところでがっつり固定されてるんだなぁとか、脚を細くするために裏側の控えがしっかり座面を支えてるんだぁとか、影の努力を賞賛してしまう。
なかなか家具図面を見ることは少なかったが、図面を通して作り手の想いを知ることができた。