仲春、浮雲。
夜に深く、深く沈んでゆく。
黒が更に黒くなっていく。静かさが更に強く帳を下ろす。
辺りに誰も居なくなる。夜に深く潜り込むと、喧騒が鳴りを潜め、孤独が鋭く光り出す。
冬の空のように爽やかに乾いている。
イヤホンで聞いてる音楽のように。
朝が嫌いなわけじゃない。昼が嫌いなわけじゃない。夏が嫌いなわけじゃない。それはそれで心を癒してくれる。音楽のように。
植物や動物だって、季節に合った栄養が必要だろう。人も変わらない。常に花を咲かせることもない。同じ毛衣を纏うこともない。
植物も動物も人も変わらない、変わらないはずなのに。人は人のことを人物とは呼ばない。大体は人や人間などと呼ぶ。人間、という言葉は元々、仏教語で世間や人の世という意味だったのに、それが人という意味になった。動物や植物との合間にいた人物が、いつしか人と人との狭間を生きることばかり考えるようになったのだろうか。
自転車に乗ってコインランドリー。
小銭が足りなくて洗えない。
コンビニ、トイレ行き、ドクターペッパー買い、お金を崩して戻り。
ドクターペッパーの蓋を開ける、溢れる炭酸、床に散乱。
そんなときもある。過去でも未来でもない。
人を好きになったり、仲良くなったり、別れたり。
そんなときもある。過去でも未来でもない。
仕事が思うようにいかなかったり、遠い人物に苛立ったり、近い人物に苦悩したり。
そんなときもある。過去でも未来でもない。
一日中うとうとしたり、やることやらないまま日が暮れたり。
そんなときもある。
鳥のフリして空高く飛んでみた。人もビルも電車もあのこも皆ちっぽけだった。
そんなときもある。
違うように見えるものも、実は同じものが形を変えているだけかもしれない。
雨が降って、光が降って、虹が降る。
見えなかったものが見える。
虹の色と色の境目には何があるんだろう。
風が吹けば空気も変わる。
海が蒸発して、雲になって、雨になって、川になって、山を降りて、海になって。
意味が無いことなんてあるのだろうか。意味が有ることなんてあるのだろうか。
そんなことを考えるときもある。
浮かんだり漂ったり落ちたり。また繰り返す。
今が過去になる。今が未来になる。
その境目はどこだろう。
加藤催青