【いつか来る春のために】㉝ 加奈子の想い出編⓭ 黒田 勇吾
去年の十二月十一日にあなたのお葬式をいたしました。親族、友人だけが集まって、そっとさせていただきました。行方不明者の家族でまだ身内の葬式をできないでいる方は結構います。でも我が家はそれをひとつの区切りにして新たな出発を決意しました。光太郎は元気です。この子は私が責任を持って育てます。安心してね。
長い手紙になりましたが、お別れです。ゆっくりお休みください。それでは、また明日、という言葉でお別れいたします。私たちのことをいつまでもお守りください。
あなたの妻 加奈子より。
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加奈子と光太郎が自宅に戻ったのは午後二時を過ぎていた。お母さん、遅くなりました、と声をかけて玄関を入ると、美知恵はお帰りと言って玄関に出てきた。
「曇ってきたから寒くなってきたでしょう、大丈夫だった?お買いものとかもできたの?」心配そうに美知恵は加奈子を見た。
「やること全部済ませてきました。ありがとう、お母さん。光太郎も元気です。心配かけました」光太郎を抱っこしながら加奈子が微笑んだ。光太郎が手を伸ばしたので美知恵が抱っこした。光ちゃん、お父さんにもちゃんとお別れ行って来たの?中洲は寒かったでしょう。あぁでもこんなに厚着してたら大丈夫ですよねぇ。美知恵は光太郎に笑顔を向けて問いかけた。光太郎は、あはっ、あはっと笑って美知恵のほっぺたを叩いた。
「加奈子さん、向日葵の造花は全部できたしみんなが好きだった善ざいの用意もできたわ。あとはゆっくり休憩しましょう」
「お母さんご苦労様でした。明日の準備もこれで終わりですね。私も隆ちゃんにちゃんとお別れの挨拶をしてきました。夕食のおかずとかも買ってきましたので、いっぷくしますか」加奈子は買い物袋などを整理しながらそう応じた。そして奥の部屋に行って、正座して隆行の写真に手を合わせた。写真の隆行は笑顔で加奈子を見つめていた。
その日は夕方に自治会長が訪ねてきて少し打ち合わせをしたあとは、美知恵と加奈子と光太郎の三人でゆっくりと過ごした。夜にいくらか雪が降ったが積もるほどでもなく、やがていつの間にか止んで静かに夜は更けていった。
~~㉞へつづく~~