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リストの手

「どうしてピアノをやらないの?」

お酒は弱いくせに、飲みすぎて少し酔った目で怒ったように聞いてくる。
最後はいつものように、手をつかんで、

「もったいないじゃない。あなたはリストの手を持っているのに」


学生時代から書き続けている私小説(非公開)の中の一節。
この後、特に色っぽい展開はないけど、社会人になって数年後、一緒に暮らし始める、バイト先で知り合った音大生が酔うと始まる定番のやり取り。

「リストの手を持っている」
実際に調律師の友人から言われたフレーズで、面白いフレーズなので、是非、彼女に言わせたくて、急遽、設定を音大生に変えて、出会ったバイト先も楽器店に変更しました。公開するつもりがないので、こういう大幅変更も楽しかったりします。実際に言ったのは、酒好きの男性調律師ですが(笑)。

ドイツのワイマールにあるリスト博物館には、石膏で型を取ったリストの右手が残されているそうです。指の付け根から指先までの長さ、人差し指が11cm、中指が12cmもあり、12度から13度まで届いたのではと言われています。

オクターブ上の「ソ」「ラ」あたりまで届くのは相当です。
日本の成人男性の中指の平均長さが8cm程度らしいから、リストは、相当大きな手をしていたようです。でも、手の大きさが、リストのピアノが神がかりだった理由だとは思いません。

リストは10歳くらいで天才と呼ばれ、ベートーベンも聴いて絶賛したパリの演奏会でも大成功したそうです。10歳くらいの子どもがそんな大きな手のハズはないので、天性の能力と日々の努力、そこに神がさらなる武器を与えてくれたんだと思います。

僕の手はそこまで大きくありませんが、平均男性よりは大きめで、10度くらいまでは楽に届くので、彼が「リストの手」と呼んだのかもしれませんね。

それでも、このフレーズを面白いだけでなく、私小説で彼女に言わせたかったのは、幼稚園に通っていた時に、先生が母に、

「myaoくんは、いつもオルガンの傍にいるんですよ。習わせてあげるとひょっとするかもしれませんよ」

と話したというエピソード。

一応、「習ってみる?」と僕に聞いたそうですが、遊び時間が減るのが嫌なので断ったそうです。無理にでも習わせれば良かったと、ピアノ好きの母は、今でも悔やんでいます。

ギターを弾くリストの手

僕も母譲りの音楽が好きで、下手っぴなギターを弾きます。
仮にピアノを習っていたとして、今の人生が大きく変わることはないと思いますが、それでも、今でもピアノが弾けたらなぁって思っているので、タイムマシンが出来たら、過去の自分に「母さんに聞かれるけど、嫌々でもピアノくらい習っとけ」と伝えたいかな。

そんなこんなで、毎朝の通勤時、Apple Music の「ピアノ・チル」を聴きながら、リストの手はハンドルを握っています。

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