血染の伝令 (南邦雄)。
南邦雄と合唱団の歌う「血染の伝令」。佐伯孝夫作詞、中山晋平作曲の戦時歌謡です。此の歌のテーマである“伝令”とは戦場に於いて大変重要な役目を背負わされていました。如何に野戦電話や無線があったとしても、敵の銃火や砲撃に空襲、更に後方に潜むゲリラや抵抗組織の妨害で不通になる事も珍しくありません。その様な状況下で上下の連絡を付けるべく、危険を冒して前線を行き来する伝令兵は、戦場の神経細胞とも云うべき存在だったのです。そして時代は日華事変の勃発も迎えて、各レコード会社は大陸の戦火を描いた時局歌を次々とリリース。ビクターも早速時流に乗って人気歌手や作詞作曲家らを動員して、命懸けの任に就く伝令兵を描いた歌が出るのも想定済のものでした🎼。
「血染めの伝令」はピョンコ節をベースにした陰旋法のメロディで、7・5調の定型詩から成る全八番と云う構成。最初は合唱→ソロ→ソロ→合唱と云う流れで、南はソフトな歌声ながら懸命な歌唱です。伴奏はトランペット、シンバル、クラリネット、フルート、ベースなどで、殆ど歌唱が全面に出た仕上がりでした。昭和10年代ともなると流石に中山晋平のメロディも旧式化も否めず、従って此の歌も古風な感じですが、その分だけ歌い易くもあるので庶民には好まれたかと思います。歌う南邦雄は朝鮮北部咸興の出身で、東洋音楽学校卒。ビクターでは「恋想華」「国境の月」などを録音しました。裏面は小唄勝太郎の「荒鷲艦隊」で、レコードは昭和12年秋に発売されています😀。