「北極光の下」 (二村定一)。
二村定一の歌う「北極光の下」。鹿山映二郎作詞、田邉絃二郎作曲です。大正時代に浅草のステージでデビューし、昭和に入ると「君恋し」「青空」などの一連の大ヒット曲で一躍時の人となったのが二村定一。ニッポノホンや日東で流行小唄やジャズソングを吹き込み、そしてビクターの専属となるや、内外の歌を定期的にリリースして安定した人気を誇りました。レコード歌手としては5年以上のキャリアがあり、また役者でもあるので演技も出来、そのコミカルな風貌も相まって今で云うアイドルの様な存在に。昭和5年秋にはフリーとなり、コロムビア、ポリドールの他、日東、タイヘイ、パルロフォンと中規模レーベルにも吹き込む事になりました。しかし以前の様に新曲が売れに売れる事はなくなり、昭和7年には新興小レーベルの太陽、オーゴンへと「転進」する事になります🎙️。
「北極光の下」はそのオーゴンでの新曲。作曲者は恐らく渡邊健次郎と思われ、彼は昭和6〜9年の間に活躍していますが、詳細は分かりません。此の歌は後に多く書かれた「流れ者は北へ」の世界を先取りするもので、北極光=オーロラの現れる最果ての地を、当て所なく一人行く旅人が描かれています。三番構成のワルツ、イントロに入る「ボルガの舟唄」が北国を思わせ、二村はスローテンポの旋律をバックにしみじみと唄っておりますが、いつもの明るい歌声に元気がないのは歌の世界を表現しているのか、彼自身気に病んでいる所が歌に出ていたのか、気になる所です。伴奏はバンジョー、ウクレレ、オーボエ、バイオリンなどで、陽旋法ながらも寂しい雰囲気に満ちた一曲でした。相方だったエノケンが売れ始めて、落魄しつつあった二村の一里塚的なナンバーと言えるでしょう🎼。