漢口だより(櫻井健二)。
櫻井健二の歌う「漢口だより」。徳土良介作詞、能代八郎作曲で、日華事変下に書かれた数ある時局歌謡の一つです。さて写真を御覧になるとお分かり頂けるかと存じますが、兎角テイチクのラベルデザインは落ち着きがなく、黒地に金文字と云うオーソドックスなのも有れば、赤茶色に夏蜜柑色、歌手の写真やイラストがプリントされたもの、また当初は古賀メロディ用に登場し、彼の退社後も存続した青色ラベル(所謂N盤)等、知る限り10種類近くも存在しています。それもあるのか、昭和13年から終戦至る時期のテイチク流行歌盤は人気が高く、今もマニア垂涎アイテムとなり簡単に手が出せません。加えて殆どの原盤が破棄されてしまったのに加えて、他社よりも元から寿命の短いレコードが多いので、令和の今日に於いて一枚入手できただけでも目付け物な訳なんですね⭐️。
では肝心の中身はどうかと云うと、大衆路線まっしぐらなテイチクらしく、良い意味での軽い歌が多いのです。文章ですと上手く伝え辛いのですが、他社だと手抜きにしか思えない歌でも、それがテイチク発売だと許せてしまうみたいな。独特の渋みや泥臭さがあるのですよね、煙草に例えると「若葉」や「ショートホープ」と云った“雑だけど捨てがたい”存在だと言えるでしょう。此の「漢口だより」も明らかに上原敏の「たよりシリーズ」の真似ですし、メロディもリラックスしたコミカルな出来栄えです。歌手の櫻井健二は奥田良三師事し、癖のない歌唱でコロムビアやポリドールで歌って来ましたが、それこそ朱に交われば何とやら…で、見事にテイチクカラーに沿ったアッケラカンな歌い方をしております。裏面は楠木繁夫の歌う「豪傑部隊」で、昭和13年暮の発売でした😀。