只今帰って参りました (上原敏・佐野周二)。
上原敏の歌、佐野周二の台詞による「只今帰って参りました」。清水みのる作詞、米山正夫作曲で、実際に応召されていた俳優佐野周二の内地帰還を記念して書かれた時局歌謡です。芸能人が従軍する事は珍しい話ではなく、アメリカでもクラーク・ゲーブルやジェームズ・スチュアート等、銀幕のスター達が志願兵として前線へと赴いており、新聞でも大々的に報じられました。その背景には人気俳優も前線へ行く事で、愛国心や敢闘精神を国民に広めると云う御上の意向があったのです。さて佐野周二とは言えば、当時としては身長170センチ代のスタイリッシュな二枚目スターであり、上原謙や佐分利信と並んで「松竹三羽鳥」と呼ばれていました。東海林太郎の「上海の街角で」にて台詞を入れた事からポリドールとの縁が出来、その後も「愛馬の歌」「純情月夜」と続いたのです🎙️。
「只今帰って参りました」は4回目の組み合わせで、上原とは「愛馬の歌」以来。新進の詩人清水みのるの歌詞に、モダンな作風で知られる米山正夫が作曲を担当しているのですが、何とメロディは欧州風の優美なタンゴになっております。三番構成で、冒頭、間奏では佐野の帰還の挨拶が入りますが、やはり不慣れだったのか辿々しさが溢れていて、却ってそれが帰還した元兵士佐野のどうにならない感情を掻き立てていました。佐野は台詞入れには相当苦労したそうで、それ故にマイク一本で歌う歌手には畏敬の念を抱いたとか。その彼の横で上原はいつもの感じでシミジミとした喉を聴かせています。バイオリン、アコーディオン、ピアノ、フルート、ビブラフォンに加えて、帰還を祝う様な鐘の音色が印象的。裏面には田端義夫の「夏草の夢」が組まれ、昭和16年春に発売されました😀。