吹雪の進軍歌。
小野巡の歌う「吹雪の進軍歌」。島田磐也作詞、長津義司作曲で、大陸での雪中行軍の様子を歌っている。中国大陸での戦火が拡大して戦況も泥沼化している最中、各レコード会社からは数多の時局歌謡やその手の映画主題歌が次々と制作されていた。それらの歌にはレーベル毎のカラーがあり、御上の意向が色濃く反映された体制賛美の高尚な楽曲、または庶民の模範的な愛国精神を歌い上げた楽曲もあれば、前線に召されても国の家族や仲間を片時も忘れずに、健気に頑張って戦おう、そして凱旋しようとする兵士目線の楽曲も多く吹き込まれた。前者では「愛国行進曲」や「満洲行進曲」、後者では「上海だより」や「身代わり五十銭」と言ったところだろうか。此の「吹雪の進軍歌」も、前線に生きる兵士らの息遣いを感じる現場目線の陽気で豪快な歌だ🎤。
此の歌は四番構成で、小野巡のソロと合唱で交互に吹き込まれている。猛吹雪の中でも進撃する兵士達、伴奏に出て来る“ドンドン、ドンドン”と云うドラムが叩き出すリズムには、燃えたぎる戦意が込められていて、しかも言い知れぬ男臭さを感じて止まないものがあるではないか。工事現場で排気ガスを吐きながら躍動するパワーショベルやブルドーザーを思い起こしてみると良い。兵士らの闘魂、埃、汗、体臭、雄々しい髭面も想起させるメロディである。残念ながらコロムビアやビクターの楽曲には、そう云う『気持ちの良い男臭さ』がない。やはりテイチクと云う会社だからこそ、此の様な良い意味でのむさ苦しい歌が作れるのだ。歌う小野巡は元警官であり、音楽学校卒ではない。その醸し出される大衆性こそ、同社に似合いの歌手だと言えよう😃。