出帆の夜 (東海林太郎)。
東海林太郎の歌う「出帆の夜」。西原武三作詞、江口夜詩作曲で、永らくポリドールで歌っていた東海林の最後期の一曲です。早稲田大学を出て満鉄勤務と云う、当時一の勝ち組コースを歩んでいた彼でしたが、仕事上の意見の違いから上に睨まれて、僻地の閑職に回されると云う憂き目に遭います。音楽への夢絶ち難く退職して帰国した東海林は、声楽家になるべく下八川圭輔らに師事。幾つかのコンクールやオーディションを経て、オペラの脇役を得るなど一歩一歩と階段を登りました。そして昭和8年に日東レコードからデビューし、以後亡くなるまで40年間に渡るプロ歌手としての日々が始まります。時既に35歳でしたが、透き通る様な其の美声は青春歌謡や外国曲でも通用し、特に股旅歌謡や文芸歌謡は大好評を博して、デビュー数年で五指に入る大スター歌手となったのでした⭐️。
「出帆の夜」はポリドールに復帰して間もない江口夜詩と組んだ一曲ですが、双方が顔を合わせるのは日東で「街の狭霧」を歌って以来の事。軽快なトロットで、生暖かい春の夜風の様な重厚なサウンドに乗って東海林は旅人の寂しさを語る様に歌います。独特の節回しが定着して久しいせいか、初期の清らかさとは違った熟練味が溢れております。伴奏はバンジョー、サックス、フルート、スティール・ギターなど。江口の楽器の使い方はいつもながら素晴らしく、二番の♬明日はあしたの風が吹く…の後での間奏に於ける清らかな夜風の様な笛の入れ方は、流石と云うか何とも冴えていますね。江口とは他に「青春夜曲」で組んだ東海林ですが、今度は彼がテイチクへ移籍してしまった為、此のコンビでのヒットが出る事がなかったのは残念の一言。レコは昭和15年春に発売されています😀。