エスパニョール (二村定一)。
二村定一の歌う「エスパニョール」。原曲は「スパニッシュ・セレナーデ」で、当時多くの声楽家達が取り上げており、二村自身もワシ印やポリドールに数回録音しております。作曲はフランス人のジョルジュ・ビゼー(1838〜1875)の作品で、元々は1859年に書いたカンタータ「ヴァスコ・ダ・ガマ」の挿入歌である“君が心を開いてくれ”と云う曲でした。此のカンタータ自体はさほど知られていないのですが、挿入歌は好評を得て多くの歌手が歌いました。ラベルには無記載ですが日本語歌詞は堀内敬三が書き、どこか控え目ながら情熱的な旋律に見事な歌詞を載せております。二村定一の歌は浅草オペラ時代に培った堂々たるもので、後年のナンセンスソングとは真逆のシリアスな雰囲気に溢れています。他「アルゼンチンの踊り」「スエズ」等も至極真っ当な歌唱でした🎼。
編曲は井田一郎が担当しておりまして、此の後にポリドールで再録した時も同じく彼の担当です。当ビクター盤はハバネラのリズムに乗って、拍子木やバイオリン、そしてアルトサックスやトランペットが悩ましげな空気を醸し出し、歌のテーマである悶える様な恋心を音に喩えていました。二村盤は二番構成で、歌い方はコミカルな感じながらも懸命にマイクに向かっており、彼の名唱の一つとなりました。井田は昭和一桁半ばに掛けての時期に此の手のムードある編曲をしばしば行い、二村定一の主要楽曲「青空」「君恋し」「浪花小唄」等常に一緒しております。二村の全盛時代は井田にとっても同じだったのです。前述した様に大正時代にも録音しているのですが、残念ながら此方は聴いた事がありません。A面も二村の「ペトルウシュカ」で、レコードは昭和4年に発売されています😀。