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恋の銀座 (藤本二三吉)。

藤本二三吉の歌う「恋の銀座」。西條八十作詞、中山晋平作曲で、日活映画「海のない港」の挿入歌です。本作は牧逸馬原作の小説が基になっておりまして、村田実監督がメガホンを取り、出演者として夏川静江、市川春代、小杉勇、菅井一郎らの名前が確認されています。サイレント作品であり、また観た事がないので如何なる場面で此の歌が出て来たのかは不明ですが、以前読んだ古い資料では上映中にステージの袖から映画館のスタッフが蓄音機を回して、歌唱場面で当レコードを流していたとあります。さて、私が此の歌を知ったのは数十年前に出た保田武宏氏の名著「銀座流行り唄」を読んだ時の事。昭和流行歌の中から、特に銀座と関わりある楽曲をタイムリーに述べた画期的な一冊で、そこで紹介されており知りました。俄然興味が湧いたのですが、聴いたのはずっと後の事です🎼。

「恋の銀座」は、中山晋平お得意の陰旋法で書かれた音頭調のメロディで、和洋折衷の伴奏になっております。此の曲に於る西條八十のセンスは抜群であり、言葉選びが上手いというか、一読しただけで心掴まれます。特に二番が素晴らしい✏️。

♫早番と、聞いてきたのに姿が見えぬ、昼の酒場のヒヤシンス、エトセトラ…。

五七五の定型詩ですが、注目すべきは詩歌の流れで“エトセトラ”という横文字をアクセントに使っていると云う点です。「あれこれ」と云う意味ですが、此の単語は当時の流行語でした。それを違和感なく入れて、ものにしてしまう詩人の技巧には只々敬服あるのみ。歌う二三吉は当時ピカイチの芸者歌手。純邦楽から流行歌迄大活躍し、ビクターに於いては主要な洋楽系歌手のカップリング担当として重宝されました。此の歌は近年出た彼女の復刻アルバムにあるので、一度御耳にされる事をお薦め致します。此れのA面こそ、田谷力三と羽衣歌子の歌う「海のない港の唄」で、レコードは昭和6年秋に発売されました😀。


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