ラ・スパニョラ (羽衣歌子)。
羽衣歌子の歌う「ラ・スパニョラ」。此の優美でしなやかな歌は、戦前期に於いて声楽家にならんとする者にとっては、必須のナンバーでありました。藤山一郎も学生時代に「美しきスパニョール」と云うタイトルで録音し、其の藤山の勧めでデビューする松平晃も、ニットーレコードでのテストで歌ったとあります。また世界的な歌姫三浦環や、天才とさえ言われた関屋敏子も歌っており、いずれも堀内敬三の歌詞が使用されています。当時、堀内は後に妻となる女性と恋愛中であり、言わば幸せのお裾分けと言わんばかりの甘味な歌詞が、歌曲やポピュラーソングに提供されて一時代を築くのでした。此の歌の原曲は「スペインの娘」と云う意味で、古く1906年にイタリアの作曲家のヴィンセント・ディ・キアラが作曲しており、日本でも大正初期に伝わってハイカラ層に受けたのです🎼。
数多のレコードが存在する「ラ・スパニョラ」ですが、此の羽衣盤も其の一つ。軽やかながら品のある仕上がりであり、ハバネラの旋律に乗って歌う彼女の芳醇なソプラノが見事。目の前が開けてゆく様な軽快かつ華やかなイントロで、伴奏にはカスタネットが使用されて心地よいリズムを刻み、楽器にはフルートやトライアングルが確認できます。二番構成で編曲者名が未記載ですが、藤山盤とほぼ同じスコアなので堀内自身が手掛けているのかも知れません。「ラ・スパニョラ」は本国のイタリアでは一時的に忘れられていましたが、戦後に制作された映画「美女の中の美女」で、主演のジーナ・ロロブリジーダが歌ってリバイバルヒットしています。カップリングも同じく羽衣が歌う「楽しき我が家」が組まれ、こちらはイギリス民謡のカバー。レコードは昭和6年初夏に発売されました😀。