夕月 (中村慶子)。
中村慶子の歌う「夕月」。内山惣十郎作詞、井田一郎作曲で、昭和初期に多く書かれた二行詩形の流行小唄です。このタイトルを聞くと、昭和43年に黛ジュンが歌った同名曲を思い浮かべますが、勿論別曲です。ドイツ系のメジャーレーベルであるポリドールレコードは、コロムビアやビクターに遅れて昭和5年1月より、流行歌のリリースが開始されました。奥田良三や毛利幸尚を除けば、当初は女性歌手が大半を占めており、青木晴子、淡谷のり子、四家文子ら新譜を賑わしていましたが、この中村慶子もその一人です。声はメゾ・ソプラノで、どちらかと言えば年増女然とした貫禄が溢れており、更に言えば爽やかな青春よりも、嘆きや悲恋をテーマにした楽曲が似合いの歌手でした。彼女については不明な点が多いのですが、他の昭和極初期の歌姫同様に、殆ど忘れ去られた存在です😞。
「夕月」は二拍子のメロディで、陰旋法のスロー・トロットになっております。此の歌は昭和40年代に多く書かれた「恨み節系歌謡曲」の元祖であり、恋に破れた女の断ち切れない想いと未練が凝縮されております。四番構成で、現在→馴れ初め→恋の破綻→再び現在と云う流れで、間奏には二村定一の「君恋し」の旋律がスローテンポで用いられています。他社のヒット曲を引用とは随分なものですが、その「君恋し」は井田一郎が編曲しているので、まあヨシとしたのでしょう。伴奏は井田の手勢からなり、彼がビクターで仕事していた頃のメンバーが多く加わっており、重い響きのシンバルやウネる様なブラス陣が印象に残ります。離れ離れになっても、お願い忘れずに居て…今一度二人の思い出の歌を…と云う願いの籠もった切実な歌詞は、日本演歌の普遍的なテーマだなぁと思いました😀。