軍國綴方教室 (樋口静雄)。
樋口静雄の歌う「軍國綴方教室」。宮本旅人作詞、田村しげる作曲で、銃後の子供達の愛国心溢れる綴方(作文)をテーマにした時局歌です。昭和12年7月に日華事変が勃発して一カ月余りを過ぎた頃、国内の青年や夫達の元には続々と召集令状が届きます。拡大して行く大陸の戦線へと、彼等は歓呼の声に送られて旅立って行きました。残された子供達は一家の大黒柱たる父親や兄に代わり、勉学の傍らで畑仕事等の家事を手伝うなどして細やかながら国への奉公に勤しむ事になるのですが、早速その光景をテーマにして此の歌が書かれたものと思われます。歌う樋口静雄はキングレコードがポリドールから独立した当時の男性主力歌手で、林伊佐緒、近衛八郎と並んで同社の“三羽鴉”と呼ばれた逸材。此の三人と歌った「男なら」がヒットし、ソロ吹込では「チンライ節」が好評でした🎼。
「軍國綴方教室」は、戦後はラジオ歌謡で大活躍する田村しげるが作曲しており、陰旋法の哀愁ある旋律。短い前奏の後でバイオリンの助奏をバックに樋口はしんみりとした喉を聴かせます。間奏では少女による綴方の朗読が入り、炊事やお掃除、お使いに精を出す日常が語られます。次の間奏では兄が手柄立てた少年の熱い誓いが語られて、樋口は歌中にて彼等の先生役として立派な決意に感動すると云う内容でした。この先生も行く行くは出征して行ったのでしょうか、または既に応召されていて、戦地にて軍事郵便で届いた教え子達の綴方に感泣していたのでしょうか。その辺りについては歌詞には描かれていないのですが、色々なドラマを感じさせる佳曲であると思いました。これの裏面は塩まさるの歌う「高梁炊いて」が組まれており、レコードは昭和13年暮れに発売されています😀。