僚機よさらば (灰田勝彦)。
灰田勝彦の歌う「僚機よさらば」。奥野椰子夫作詞、佐々木俊一作曲で、日華事変後に直ちに吹き込まれてリリースされた一曲です。満州事変以降、しばらくは中国の情勢は落ち着いており、せいぜい抗日組織との小規模な戦闘がある程度でした。しかし昭和12年7月7日、河北で陸軍部隊が移動中に何者かによる銃撃を受けた事による所謂「盧溝橋事件」が発生し緊張感が高まります。一応は日中双方の話し合いが行われたものの、全く折り合いが付かないまま決裂に至って全面的な戦争へと発展し、日本軍は大規模な軍事行動を開始します。内地では一家の働き手達の応召が相次いで、あちこちの駅頭から出征兵士が旅立って行く中、目端の利く映画会社やレコード会社は早速時局に沿った商業展開を実施。歌の世界からも所謂「戦時歌謡」が製作され続々と世に送り出されたのです🎼。
「僚機よさらば」は、当時からハワイアンや流行歌で活躍していた灰田勝彦が吹き込みました。針を落とすと重苦しい感じの荘厳なイントロ、トランペットやドラム、弦楽器の合奏の後で歌に入ります。戦闘機パイロットの覚悟と決意をテーマにしているのですが、最初から生還を期していない悲壮な歌詞を灰田は噛み締める様に歌っておりました。私の記憶の限りでは、此の歌がハイカツの入れた戦時歌謡第一号だったと思います。ハワイ出身の二世歌手でしたが、此の手の歌もしっかり熟せる事が証明された訳でして、彼の人気の共に音楽界での評価もグッと上がった事は言うまでもありません。此の後も「皇軍大疌の歌」「愛国行進曲」等に参加し、ビクター発の時局歌の常連歌手となるのです。裏面には徳山璉の「敵前上陸」が組まれ、レコードは昭和12年秋に発売されました😀。