皇国の妻 (音丸)。
音丸歌う「皇国の妻」。高橋掬太郎作詞、明本京静作曲で、同名松竹映画主題歌とあります。元々は民謡歌手としてデビューした彼女ですが、流行歌進出に当たっては本名の永井満津子より、芸者っぽい名前の方が売れるとの判断で「音丸」になったとの事。艶っぽさよりも瑞々しさのある歌唱が人気を呼び、早くも「船頭可愛や」が大ヒットし、続いて「下田夜曲」「博多夜船」が売れてスターとしての位置を不動のものとしました。その彼女のもう一つのジャンルとして欠かせないのが戦時歌謡でして、既にデビュー時には「主は国境」「君は満州」を吹き込み、その後も「防空音頭」「満州吹雪」等、続々と吹き込みます。御座敷ソングが多い日本調歌手と時局歌は、一見すれば『水と油』に思えるのですが、音丸の魅力の為せる技なのか、度々此の方面の歌に起用されたのです🎼。
日華事変勃発半年後に出た「皇国の母」が裏面ながらホームランとなり、音丸は益々吹き込みに実演、慰問で多忙になります。会社は早速作曲者の明本京静を再び起用し、2年後の昭和15年初夏に映画主題歌として「皇国の妻」をリリースしました。本作は八木沢武考原作・脚本で監督は蜷川伊勢夫が担当。出演は川崎弘子、三宅邦子、佐分利信などで、銃後に於るる戦争未亡人の国への奉公を描くという、典型的な愛国映画でした。前曲「皇国の母」同様、四番構成の重く湿った感じのメロディであり、レコードも結構捌かれたのですが、前曲程は受けなかった様です。戦争も泥沼化して三年目に達しており、人々の心も日々量産される愛国歌謡の数々に食傷気味だったのかも知れません。裏面は霧島昇の「ふるさと通信」が組まれ、A面とは対照的な明るくカラッとした一曲でした😀。