どちら向いても=街のSOS (二村定一)。
二村定一の歌う「どちら向いても」。竹内草路作詞、八坂一郎作曲とありますが、この歌は元々「街のSOS」と云うタイトルで発売されていて、販売元の彌生レコードとは東京のマイナーレーベルである太陽の後身です。此の独立系レーベルはレコード一枚を一円とし、流行歌以外は落語や漫才、浪花節や民謡など大衆向けのレパートリーを主としていました。昭和7年から新譜のリリースを開始するのですが、その販売先はレコード店ではなく銀座などの繁華街に並ぶ夜店であり、また資金力からして大した宣伝も出来ない為、流行歌に関しては殆ど世間に知られる事はなかったそうです。レーベルの立ち上げ時に呼ばれたのが、昭和初期のレコード界を牽引していた二村定一。ビクター退社後は事実上フリーになっていたので、頼み易さもあったのでしょう。太陽では10数曲録音しました🎼。
「どちら向いても」は、表面上は普通の流行歌を装っておりますが、原曲はドイツの作曲家ヘルマン・ネッケ(1850〜1912)作曲の『クシコス・ポスト』です。恐らくそのメロディを聞いた事がない人は居ないと断言して良い程、日本ではメジャーな曲。運動会の徒競走の定番BGMであり、その迫り来る様な旋律は不思議な高揚感と緊張感をもたらしています。歌のテーマは大都会は危険だらけ…と云うものであり、バスに乗ったらパンクして、歩いていたら工事現場の穴に落ちてしまい、人混みでは客引きの女性に連れて行かれる等、今と全く変わらない光景を歌っておりました。このシチュエーションは、後に左卜全が歌った「老人と子供のポルカ」の先を行くものでもありました。二村の汗だく感溢れる歌い方も面白く、メジャーレーベルでは味わえない豪快な一曲と言えますね😀。