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古きパイプ (フローラ瑠璃子)。

知る人ぞ知る声楽家、フローラ瑠璃子の歌う「古きパイプ」。サトウハチロー作詞、賀川貞作曲で、まだ東海林太郎らが来る以前の洋楽色が強かった当時のポリドール流行歌です。コロムビア等と並ぶ外資系レーベルの当社は、大正末に阿南正茂がドイツにあるグラモフォンと交渉し、日本に於る製造権を獲得したのが始まり。そして日本ポリドールレコードを立ち上げ、暫くはクラシックなどの洋盤を中心に販売していたのですが、昭和4年12月より流行歌の新譜も出る様になりました。洋楽系の会社なので、奥田良三や青木晴子に若き日の淡谷のり子など、音楽学校出のシンガーが占めていましたが、他社よりも後発な為か然程ヒット曲は少なめでした。その最中の昭和7年に池上利夫の「忘れられぬ花」が大ヒットして、漸く売れるレコが出始めて軌道に乗っかる格好となったのです📀。

「古きパイプ」は期待の若手歌手の池上利夫と、此の頃デビューしたフローラ瑠璃子の二人による競作歌唱と云う、中々面白い企画で生まれた歌。頭角を表して来たサトウハチローが作詞し、賀川貞と云う謎の人物が作曲しました。二番構成の感傷的なメロディはカノン形式で伴奏されており、アコーディオン、スティールギター、バイオリンなどが悲しげな音色を聞かせています。歌手のフローラは鋭角あるアルトで歌っており、池上盤よりも幾分思い印象を受けました。如何にも声楽家然とした歌唱なのですが、その硬さが過ぎ去った恋人を偲び悲しむと云うテーマに沿っている様に思えます。彼女は他に「心ひそかに」と云う歌を録音しましたが、僅か3曲残しただけで姿を消しました。詳細な経緯は全く不明ですが、誰かの変名でもなさそうです。レコードは昭和8年春の発売でした😀。

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