「君が移り香」 (渡邊光子)。
渡邊光子の歌う「君が移り香」。大沼?作詞、永井巴作曲ですが、此の曲はベルベット石鹸株式会社から依頼を受けて製作されました。その為に此のレコードラベルは紫色であり、番号が振られておりません。ベルベット石鹸とは、イギリスの油脂メーカーのリーバ・ブラザーズの日本法人であり、兵庫県尼崎市に工場を構えていました。戦前期は化粧・洗濯用石鹸のシェアでは花王やミツワ次ぐ需要があり、昭和12年に日本油脂に改名されて、戦後は日油株式会社となって現在に至ります。その宣伝歌が日東レコード製作と云うのも、同じ関西の会社と云う理由もあったのでしょう。当時あらゆるレーベルに歌声を提供していた渡邊光子が選ばれたのも、彼女の歌声から滲み出る個性と、製品の持つ優雅なイメージが一致したとも考えられます🎤。
「君が移り香」は全六番から成る歌詞を半分づつ裏表にカップリングしておりまして、陰旋法の三拍子のワルツに仕上がっております。上品なサロンスタイルのサウンドで、伴奏にはギター、フルート、アコーディオン、バンジョーが抒情的なメロディを添えています。渡邊は芳醇な色気を見せつつ、明瞭なアルトで歌いました。スローテンポの悲しげな旋律は、寂しい夕暮れ時を思わせる様でもあり、一部の歌詞にベルベットの名前が出る箇所を除けば、殆ど普通の流行歌となんら変わりはありません。作曲家の永井巴とは明治時代に活躍した陸軍軍楽隊長である永井建子の子息でして、ニットーレコードのスタッフとして活躍し、自作では「臆、中村大尉」などを残しています。恐らくですが、レコードは昭和7〜8年の間に頒布されました😀。