今宵も空に (松平晃)。
今年も早残り2ヶ月余り。季節も漸く秋本番であり、こんな夜長はしんみりした歌の一つも…だなんて気分になるものです。そんな中から今夜は、松平晃の歌う「今宵も空に」を。明治44年6月に佐賀県に生まれた松平は、本名を福田恒治と云いまして、長じて音楽の道に入るべく上京後は東京音楽学校に身を置いていました。不況の影響で実家の懐が悪くなり、自活の道を選ばざる得なくなった彼は、先輩の増永丈夫=藤山一郎の紹介で日東レコードのテストを受け、見事に合格。殆どアルバイト同然の気持ちで歌手活動を開始します。大川静夫、松平不二夫、池上利夫、柳澤和彦と、色々な名前を用いて各レーベルに出没し、その中には東京進出して間もないテイチクもありました。同社での最初の録音は昭和7年暮れに出た「若人の唄」で、翌年に掛けて10曲ばかり残しております📀。
「今宵も空に」は西崎義輝作詞、北木正義作曲で、陰旋法三拍子のワルツで書かれた感傷的なメロディ。夜空を見上げて儚く散った恋の嘆き、未練を切なく歌っており、松平の濁った歌声が曲の世界を描いています。全三番構成で、伴奏はアコーディオン×2、或いはハーモニカというシンプルなもので、その素朴な音色は地味ながら手作り感ある出来栄え。作詞作曲者は馴染みのない人ですが、西崎はマイナーでの仕事が多いながら恋を題材にした歌を多く書き、北木正義は後に「国防婦人会の歌」を作曲しました。戦後も日本マーキュリーで仕事をしている様ですが、詳細は分かりません。尚、松平晃はテイチクでは「松平不二男」と云う芸名で歌いましたが、コロムビア移籍後に人気が出たので、テイチクは無断で「松平晃」として再販したそうです。売れる事を目論んだのでしょう😅。