あの夜君なくば (折原啓子)。
女優として活躍した折原啓子の歌うブルース歌謡「あの夜君なくば」。高橋掬太郎作詞、八洲秀章作曲で、昭和22年夏に発売されています。本名三上芳子、大正15年元旦に茨城県取手市に生まれた彼女は戦争中に女学校を出てタイピストをしていましたが、大映が開催したニューフェイスオーディションに出て合格を果たします。折原啓子と云う芸名を得て、早速「彼と彼女は行く」と云う映画でデビューを飾りました。続いて「花咲く家族」「看護婦の日記」と出演を続けましたが、結核に罹り暫く休業を余儀なくされます。復帰後は東映作品にも出ましたが、その一方で彼女がレコード吹き込みをしていた事を知る人は、今や少ないのではないでしょうか。どうして歌う事になったのかは不明ですが、女優兼歌手としても活躍中だった高峰三枝子に影響された可能性もあるかと思います🎬。
「あの世君なくば」は映画主題歌ではなく、通常の流行歌として書かれました。コロムビアから移籍した高橋掬太郎が歌詞を手掛け、作曲は本格的な活動を開始した八洲秀章と云う、勢いあるベテランと若手による楽曲。それだけにグレードの高いメロディであり、折原もしっとりした歌声を聴かせています。1〜2番間の台詞は実に上品で淑やかなもので、想い人に去られて恋に敗れた乙女心がよく現れていました。私が此の曲を最初に聴いたのはSP盤ではなく、30年以上も前にNHKラジオのリクエスト番組でした。歌の後でアナウンサーが「それにしても此の台詞、今時の女性はまず言わないでしょうねぇ」とシミジミ語っていたのを覚えています。折原啓子は此の後、コロムビアで「涙の舞扇」「恋しかるらん」を入れますが、共に良曲であり売れなかったのが不思議でなりません💬。
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