山は夕焼け (東海林太郎)。
東海林太郎の歌う「山は夕焼け」。岡田千秋作詞、田村しげる作曲で、彼がキングレコードに残した楽曲の中では、かなりヒットしたナンバーです。親の意向もあってか、早大を出て南満州鉄道に勤務していた東海林ですが、常に音楽への憧れは忘れずに抱いて過ごしていました。満鉄傘下で働く現地労働者の待遇改善を訴えた事が原因で、僻地の資料館へ左遷されるなどの辛酸を舐める中でも音楽への関心は高まるばかり。遂に一念発起して満鉄を退職し、帰国後は中華料理店の経営に携わりながら下八川圭輔らに師事。幾つかのオペラで端役をこなして着実に階段を登り続け、35歳にしてキングレコードの専属となりました。デビューして1年で50曲以上を複数の会社からリリースし、先ずポリドールに入れた「赤城の子守唄」が場外ホームランになるなど、前途は洋々だったのです⭐️。
「山は夕焼け」は抒情的な流行歌で売った田村しげるの作曲で、彼は最初に東海林の魅力を引き出した才人でした。三番構成で長閑な曲名とは裏腹の寂しげなメロディ、日も短くなって夕風肌寒い異郷の里を感じさせる伴奏。何よりもギターのソロが素晴らしく、黄昏て行く旅路の哀愁を漂わせます。このギターは時期的に見て作曲家の竹岡信幸が弾いていると思われますが、彼は明大マンドリン倶楽部の出なので、師匠格の古賀政男の影響もあったのでしょう。他、バイオリンやサックス、フルートが良い味を出し、途方に暮れている様な東海林の歌唱を引き立てておりました。此の歌は初期のキングレコードの楽曲中でも大ヒットしたので、定期的に出る同社の復刻アルバムでは常に定番曲。一度未発売テイクが復刻された事もあり、そのクリアな音色にキングの音響技術の高さを感じました😀。