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Sly & The Family Stone『Gratest Hits』(1970)

アルバム情報

アーティスト: Sly & The Family Stone
リリース日: 1970/11/21
レーベル: Epic(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は343位でした。

メンバーの感想

The End End

 全力で演奏している感じはしない、充分に余力を保った感じの演奏なのに、不思議なくらいパワーに溢れている。グルーヴが生まれているというよりは、既にそこに流れているグルーヴを全員が共有して乗っかっているというか、"相手の力を利用して倒す"みたいな、合気道みたいな感じがある気がする。
 中でもベースのプレイが圧巻!アタックのタイミング以上に音価の終わり際に気が配られていて、チョーキングによる音程のベンドが、元気よく弾む硬めのゴムみたいなサウンドをより強固なものにしている。こんな風に楽器を弾けたら、楽しくて仕方ないだろうな……

コーメイ

 あれ、あんまりハマれない。変にポップ調っぽさがあるからか。とくに序盤では "おまえ、もっと尖るか優しくなってくれよ、中途半端だよ"という歯痒さがあった。
 そう思っていたら、アルバム終盤でやっとガヤガヤした楽曲があり、ホッとした。だが、遅いよ、出てくるのが。

しろみけさん

 タイトルを見て"おいおいベストアルバムかよ"とか少しでも思ってしまった1時間前の自分をペチペチしたい。プレスリー〜モータウン〜ビートルズ〜JBと、このランキングを彩ってきたスターたちが圧倒的な陽光の下に集結し、強烈なシュプレヒコールを唱える様は『グレイテスト・ヒッツ』以外の何者でもない。スライ・ストーンはファミリーバンドが本格的に始動する前、地元のラジオ局でDJを務めていたという。納得だ。エサ箱の中で、ジャンルや人種の壁は単なる仕切りでしかなく、DJはそれを即座に取り除いて最高のレコードだけを拾い上げることができる。それを最もプリミティブな方法でスライは体現している。

談合坂

 ひたすらにゴキゲンという言葉が似合う。この生への賛歌的なエネルギーは、日常系みたいな生易しいものではなくてファミリー向けアニメのような強烈さを伴ってくる。誤解を恐れずに言えばだいぶ強迫的だと思う。ここまでメロディーに味をしみ込ませているのもこれまであまり出てきていなかった気がする。コーラスにしてもリズム隊にしても、かなり音程に意識を向けてしまう。

音の抜き差しを繰り返し、徐々に熱を帯びていく音楽が大好きなのに、なぜファンクミュージックにこれまで傾倒してこなかったのか。自分でも不思議だけど、こんな最高の作品に会えたのはとりあえず幸運なのだろう。叫ぶ人がいて、緩やかにコーラスする人がいて、涼しげにドラムを叩いてる人がいて、楽しそうにべシン!とベースを弾いている人がいる。共同体としてのファンクミュージックは誰をも置いていかない。

みせざき

 どの曲も一つ一つがそれとして独立している、完成形として存在している気がした。スライのこうしたポップセンスを感じるにはベスト盤を聴くことが重要だと分かった。特にバッキングとして独特のタイミング感とフレーズで支えるギターが良かった。

六月

 どうしても、この一年後に発売される、あの不穏さと怠惰と猥雑さと、とにかくダウナーな雰囲気に満ち満ちた『There's a Riot Goin' On』の前振りにしか感じられない。そうでなくても、このアルバムが出た時には、あの輝かしいカウンター・カルチャーやサマー・オブ・ラヴは、無惨な死体と成り果てていた。シャロン・テート殺害事件、オルタモントの悲劇などのような、革命というものが単なる幻想でしかなかったことを突きつけられるような出来事によって、あの誰もが世界が良くなることを確信していた時代は終わり、それがなかったとしてもその時代を動かしていた若者たちにはもっとそれ以上に残酷でどうしようもない、"大人になる"ということ、つまりモラトリアムの終わりが訪れた。
 ベストアルバムというのは往々にして、"ぶつ切りしていくこと"によって成り立っている作品形態だが、その切断が解剖へと変化して死体となったその時代を切り分け、取り出した臓器を並べた検死記録のようなアルバムだと思う。まるでフランケンシュタインのように生き返った変わり果てたリビング・デッドとなる前の、生命力あふれる溌剌としたヴァージョンの「Thank You」でこのアルバムは終わる。

和田醉象

 私の印象だとSlyって山登りみたいなもので、理解できれば頂上からの絶景を楽しめるけどそのまでに行くのにかなり苦労する印象だ。高校の時初めて聴いてなかなかに馴染めなかった記憶がある。あれから時間が立ったっていうのもあるかもしれないけど今回は割とススっと山登ってきれいな景色を見ることができた。でもベストっていう楽な登山口使ったからで、ちゃんと苦労して理解した感覚も伴えばもっと絶景を理解できるはずだ。ベストから入るのもいいけどアルバムにもまた触れたくなった。
 中身としては、あまり明るくない私でもわかる曲が集まってる。多分シングル集だこれは。(調べたら実際そうだった。)アルバムで聴くとSlyは結構ローファイだったり、ゴツゴツしたグルーブだったりと聴きづらさみたいなのがあるけどこれは割とすぐに理解できる感じ。みんなが好きなトロの部分だけ集められてるけど通しで聴いて強く印象には残らなかった。アルバム全体で聴いて強弱嗜んだほうが好きになれると思った。

渡田

 R&Bやソウルはあまり聞かないけれど、ファンクは好きになれるかも。
 思ったより大袈裟じゃない。楽しげなんだけれど、あくまで淡々としたリズムで居続けている。聴いていて無意識に乗れる音楽であるし、だからこそちょっとした転調とかにも気づくことができる。曲内のどんな変化も楽しい。

次回予告

次回は、Cat Stevens『Tea for the Tillerman』を扱います。

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