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マスターピースにはマスターピースたる理由がある——「或る歴史と或る耳と」20週目を終えてのレビュワー座談会:前編
ミュージック・マガジン誌「50年の邦楽ベスト100」のランキングを年代順に聴き、数人のレビュワーが感想を残していく企画「或る歴史と或る耳と」。今回はその特別編として、ここまで60枚の名盤を評してきた参加メンバーたちが集合し、雑感やアルバムへの思いを語った座談会の様子をお届けします(参加メンバーのうち、「談合坂」は日程の都合により不参加)。
前編では80年代の音楽シーンについて、そして各々のお気に入りの作品についてトークしています。少しずつ互いを分かり始めたメンバー達の様子を、ぜひお楽しみください。
カタログ化と並列化
The End End: えっと、今回が1978年とかからかな?
しろみけさん: そう。今回は2回目で、78年のサザンオールスターズ『熱い胸さわぎ』から。
The End End: そこから90年のサンディー『MERCY』まで。
和田醉象: いくねえ。
しろみけさん: 前回は確か、69年の早川義夫から77年の大貫妙子までだった。
The End End: だから、30枚かけて8年しか進んでなかったんだな。
湘南ギャル: 少な。
The End End: で、恐ろしいのが、逆に残りの40枚であと29年進むっていう。
渡田: 最初にこれ入れよう、あれ入れようと思ってやってたら、後半の年のがなくなっちゃったのかな…
The End End: じゃあ、そろそろ中身の方に。前回と比べてどういうモードの変化を感じましたか?
しろみけさん: 前回は話題に上がったみたいに、細野晴臣とかが半分くらいの作品に関わってたよね。同じ界隈ぐらいの人がやってた感じ。
和田醉象: みんな顔見知りみたいな感じ。
しろみけさん: だったけど、今回はもう脱したよね、それは。色んなところから色んな人がようやく出てきたって感じで。それこそマジで一発目のサザンなんて、順を追って聴いてたら本当に突然変異って思う。
和田醉象: 湘南からねえ。
湘南ギャル: そうです。
The End End: “今何時?”とかって、全然今も現役の曲じゃん。
渡田: そうだね。今も聴けるような、そういうのが多くなってきたとは思う。
The End End: それまでは結局”昔の曲”だったけど。
しろみけさん: 古いけどかっこいい曲みたいな。
湘南ギャル: どうしても”けど”がついちゃう。
渡田: 今回は明らかに難しいよ、なんか散らかってるじゃん。個性が。
葱: でも、聴いたことあるやつは多くなった気がする。俺は多くなりました。
渡田: ポストパンクをひとまとめでしゃべってる時ぐらいしゃべり辛い。スージー・アンド・ザ・バンシーズとトーキングヘッズを同時に語らなきゃいけない時みたいな…
しろみけさん: 確かにリスト見てると、一個のストーリーっていうよりは“これ押さえておこう”で入れてるのが多くなってるイメージ。
"ミューマガっぽい"が足りていない
葱: じゃあ逆に、この年代で聴かれてたけど見過ごされてるものみたいなものを考えてみますか?アイドルとか。
しろみけさん: “売れてる”だと、80年代は聖子ちゃんがバリバリの時期だよね。中森明菜とかも。
The End End: うん。とはいえ、歌謡曲フィールドはどうアルバムで入れ込むかっていう課題がある。
湘南ギャル: でも、「プラスティック・ラブ」だけで入ってるアルバム(竹内まりや『VARIETY』)あるじゃん…
The End End: 俺、それが気に食わないんだよ!
一同: (苦笑)
The End End: だって、(2019年の)2~3年前にあのリスト作ってたら入ってないじゃん?「プラスティック・ラブ」以外にリストインする理由あったかな、って…
しろみけさん: でも、俺は結構感動した。ヤマタツがよく“自分はロック”って言うのが一番濃いというか。
The End End: あー、まあ、そっか。ヤマタツを理解するっていう耳で聴けばいいのか。
しろみけさん: そう。この人めっちゃロックとか言うけど、 そう…?って思いながら聴いてたら、あ、確かにこの人がやりたいのってマジでこういうことなのかっていうのは分かった。だって、「プラスチック・ラブ」みたいな曲、他に一つもないじゃん。
The End End: 「プラスティック・ラブ」だけ異端だったよね、あれ。
湘南ギャル: うん、びっくりした。
しろみけさん: あと、思ったより最近なんだよね。84年なんだ。79年とか80年ぐらいだと、山下達郎一派みたいな感じのものがめっちゃランクインするけど。
The End End: 84年ってなんかあった年だった…?84年の作品多くない?しかも、84年でバーッて入った後、急に87年まで飛ぶんだよね。
湘南ギャル: 85~86年って音楽無かったのかな…。
葱: 洋楽も結構その辺って、見放されるっていうか。
しろみけさん: よく言われるのは、マイケルジャクソン全盛期みたいな。MTVが~みたいな時だよね。
The End End: 84年の前も飛んでるんだよね。このリストで抜けが出たのって1983年が初めてじゃないかな。
葱: 何があったんだろう。
The End End: 83年の邦楽アルバムランキングみたいなの見てみる?
葱: 83年のヒット曲で調べると、原田知世とか松田聖子とか。
渡田: あと、梅沢富美男の「夢芝居」出てきた。
和田醉象: やっぱり歌謡曲強いね。
しろみけさん: アルバムだと、ヤマタツの『MELODIES』とか、サザンの『綺麗』とか。
The End End: ああ、もうその前に取り上げちゃってるしな…の人が多かったのかな。
湘南ギャル: 確かに、ヤマタツとかめっちゃ入れんのかなって思ったけど、思ったよりだった。
しろみけさん: 他にはもう、ミューマガっぽいの全然無いな…シブがき隊とかが何枚も入ってるな。
葱: やっぱりアイドルの時代。
The End End: そっか、アイドルというムーブメントってその辺からか。
和田醉象: 「君に胸キュン」も出てるし。(笑)
しろみけさん: 83年はだから、もう本当にアイドルの一発目の全盛期だったんだ。
The End End: 確かにちょっとありそう。
竹内まりやはコスプレイヤー
しろみけさん: 自分の話していい?なんかランキング見ながら、なんかうっすら80年代全部嫌いかもって思って…『軋轢』とか、プラスチックスぐらいから。
湘南ギャル: なんか、しろみけさんと趣味が逆すぎるから、逆に安心して悪口が書ける。
The End End: 誰かが褒めてるだろうし、っていうのはあるよね。
しろみけさん: 90年代に入った途端岡村ちゃんで、やったぜ!って。ようやく抜けたと思った。いとうせいこうとか近田春夫とか、俺はその辺からまた元気になってきたな。
湘南ギャル: プラスチックスにはなんであんなキレてたの?(笑)
The End End: 出た。(笑)その話はまた後ほどということで…。
しろみけさん: 日本のアルバムだから、当時の日本のこともちょっと考えるわけだけど、多分、元気すぎたんだよね。それがちょっと、合わなかった。なんか、暗い人でも、明るいヤツが凹んでるぐらいな感じで疲れるというか…岡村ちゃんは、“世間では…”みたいなこと言う曲あるじゃん。だから、ちゃんと暗い時代来たんだって、なんか安心する。“失われた10年”ぐらいからちょっと気持ちも上がってくる。
The The End: そっか、失われ始めたところなのか。今回のリスト。
湘南ギャル: そろそろ我々が生まれるってことは、暗くなってくる。(笑)
しろみけさん: そう、ありがたい。(笑)
渡田: ああそうか、80年代って明るい時代なのか。だから暗いヤツがまっすぐ行けないんだ。戸川純みたいになるしかないんだ。キヨシローとか戸川純みたいに、暗いヤツは変な恰好しないとやっていけないんだ。
The End End: イロモノにならないといけなかったのか。
和田醉象: “日本人って暗いね”…
葱: あ、そういうこと…?
The End End: 俺、ちょうどそれ書いたわ。じゃがたらの時に、“私は性格が暗い日本人なので、ちょっとこれを受け付けません”みたいなことを書いた。
湘南ギャル: 怖いって書いてたよね。
しろみけさん: ああ、怖かった。確かに。
渡田: INUは?あれは暗いのか?
和田醉象: INUは暗いでしょ。
しろみけさん: なんか、(暗くても)社会性があるやつはちょっとダメかも。INUは社会性あんまりないからさ。
渡田: 暗い歌詞書いてるやつ、ちょっと嫌いだったよね。素直に暗い内容のやつ好きじゃなかった…なんだろう、そのまんまめっちゃ暗いですみたいな。私暗いですってやつは、明るい世界の中の暗いでしょそれ?みたいなのが。
一同: あー。
渡田: あ、まりや。竹内まりやの歌詞は暗かったけど、暗いように思えなかった。
湘南ギャル: そうそうそうそう。そう、アイツは“暗い”のコスプレをしてる!
渡田: 楽しんでるよね…だから、純ちゃんの本物加減がすごく良い。(笑)
湘南ギャル: その2つは順番近かったから、すごくそう感じた。
渡田: 素直に暗いことを言えない時代なのかもしれない。素直に暗いこと言ってると嘘っぽくなる。
湘南ギャル: カラ元気でやるしかない。
渡田: 一番最初の早川義夫とかは、別に嘘ついてる感じしなかったから。それ以降の井上陽水とかも割と暗かったけど、“やってる”わけじゃないでしょって。なんかユーミンも若干暗いのあったけど。
ていねいな原稿
The End End: じゃあ、そろそろ各々のフェイバリットの話をしましょう。
渡田: フェイバリットは全員一致が起きるんじゃないの?って思ってる。
しろみけさん: ええ?
渡田: 「朝までそれ正解」の松っちゃんみたいなこと言うけど、正直ね、1個だけ、明らかにみんなの文章が上手かった回がある。
The End End: あ、そうだ。フェイバリットの前にみんなの文章の話したいなって。段々、各々が各々の文体に影響されあってきた感があるような。
しろみけさん: あ、わかる。俺、超くだけてきてる。もう、いいやって。(笑)
The End End: そう。で、桜子ちゃんが、ちょっとレビューっぽい文章書き始めたり。
しろみけさん: 惹かれ合ってる。みんなが一つに。
渡田: みせざきと葱の文章が綺麗になってきてるよね。The End Endも結構綺麗な回がある。たまに外すけど。
湘南ギャル: (笑)
The End End: もう、なんか自分でも聴いてて、これは上手く書けないって思う時ある。
湘南ギャル: 諦めが早くなったかもしれない。今回はもう、他の誰かに(ちゃんと)書いてもらおうって…その面でいくと、なんかみんなが手を抜かずに書いてた回ってことっすよね。
しろみけさん: なるほどね。
渡田: みんな明らかに熱量が高かった回ある。
葱: へー…当たるといいっすね。(笑)
しろみけさん: 煽ってる…!
渡田: ギャルの文章も好きで。
湘南ギャル: あ、ありがとうございます。
渡田: 俊介が1番好きだけどね。
The End End: 俊介の文章めっちゃ良い。前回みんなも言ってたけどめっちゃ良いよ。
俊介: えー、ホントですか?
湘南ギャル: 岡村靖幸の時にみんなめっちゃ歌詞褒めてて、私はもうマジでエッ…みたいになってて、そしたら(俊介が)同じこと言ってて安心した。チープだよね、あれ。
The End End: チープなのは確かだよ。でもチープでいいじゃんっていう話なんだよ!俺は。
しろみけさん: その“いいじゃん”をどこに置くかの話もあるよね。俺はプラスチックスのチープさは無理だったから…ああそっか、それと同じような感じで無理なんだ。
俊介: 高校生とか、中学生の時聴いてたら、多分めっちゃ好きだった。
好みじゃないのに熱くなれるほど優雅な気分じゃない
和田醉象: 好きなアルバムと好きじゃないアルバムの(レビューにおける)熱量差はあるよね…渡田のやつ当てていい?『B-2 UNIT』。
渡田: 違う。
葱: ブルーハーツじゃないんですか?。
渡田: そう、ブルーハーツ。明らかにみんなブルーハーツだけ熱量あった。
葱: でもそれは、書きやすいからじゃない…?
渡田: みんな陰キャだからでしょ。ただ単純に。みんなひとりぼっちだから…
湘南ギャル: (笑)。なんか、ちゃんとしないと失礼だなって思った。
渡田: 暗いのをどう表現すればいいのか分かんなくなってる時に出てきたのがブルーハーツだったから。これか、みたいな。
The End End: ブルーハーツは…良いですよね…
しろみけさん: ああ、そうか。熱量で言うと『軋轢』かなって思った。
湘南ギャル: 『軋轢」めっちゃ良かった。
The End End: 俺、『軋轢』(がフェイバリット)です!
湘南ギャル: でもジャンルがありすぎて、なんかいろんな好きの形が…一番とか難しい気がする。
しろみけさん: なんか、元々のみんなのイメージからして、こんなだったけ?って。その幅で言うと、アレはみんなすごく熱量あるなと思った。
和田醉象: 『軋轢』結構違和感なかった?急に入ってきたぞって。俺、リックがニューヨークにいたからみたいな、あの、あれを考えても、突然現れたみたいな違和感があったんだけど。
しろみけさん: 今まであった音楽と比べたら、確かに。
The End End: 本当は3枚フェイバリットの候補があるんだけど、ブルーハーツと『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』は元々大好きすぎるから、じゃあ『軋轢』の話しようかなって感じ。
湘南ギャル: それで言うと、私は元々の嗜好でもじゃがたらとプラスチックスは多分、プラスチックスは本当に聴いたことなかったけど、自分でもたどり着ける可能性があった。 この企画じゃないと聴かなかったし、好きじゃなかっただろうなっていうのは、あれっすね。 佐野元春。マジで一生聴かなかったかもしれない。
(以下、メンバーのサークルで昔コピーした「COMPLICATION SHAKEDOWN」の動画がいかに面白いかという話でしばし盛り上がる)
縦のライン
しろみけさん: その視点で言うと私は『STOP JAP』かも。スターリンは、演奏が超いい。
渡田: スターリンは最初がピストルズなのに、最後の曲がPILになるのがカッコいい。「ワルシャワの幻想」なんか、メタルボックスの頃のPILみたいな、最初はピストルズみたいな曲なのに、それになるのがなんか、変遷を見るようで面白かったな。
しろみけさん: 縦の揃い方が。こういうのって多分言われづらいジャンルっていうか、ソウルとかは縦で、みたいに言うじゃん。 でもこういう揃い方もあるんだ、みたいな。
The End End: パンクはやっぱりキメだよね。
しろみけさん: そう、キメがヤバい。最初の「ロマンチスト」から改めて聴いて、演奏やっぱり言われないけど、上手いなって。
和田醉象: あれ、当時確か10万枚単位で売れてるから。
葱: へえ~。
しろみけさん: あと、やっぱりディストーションギター。
和田醉象: あそこまでやるのは多分あれが初めてだよね。
しろみけさん: そう、だから、こんなカッコよかったんだみたいな。歌詞よりもそっちかだったかな。演奏が何よりカッコいい。
The End End: 俺はマーシャルの歪みが苦手だからなー…あと、演奏は分かるけど、アレンジの作りが雑な感じがしたんだよね。(パンクなりにも)もっと凝れるだろうっていう感じは。
しろみけさん: 確かにね。 ま、“凝り”で言うと確かに、他のやつに劣りはする。
The End End: 後からWiki見たら、すごいスケジュールの中で作らなきゃいけなくて…っていうのもあったみたいだけど。
和田醉象: 「ロマンチスト」とか、結構古い曲なんだよね。
The End End: そう。昔からあってアレンジが仕上がってる曲とそうでもねえ曲の差が激しすぎて。
つまりモーニンググローリー
The End End: じゃあ、次は桜子。
桜子: 『FOR YOU』が。歌が好きだから…やっぱり「SPARKLE」とか。
The End End: 「SPARKLE」はちょっともう、威厳があるよな。あれは好き嫌いを飛び越えて、"名曲を聴いてる時の気持ち"になる。
湘南ギャル: ああ、名曲~!って。
桜子: テンポ感がちょうどよくて、あとはベードラが好きだった。
湘南ギャル: ベードラ、クるよな…。
The End End: ヤマタツはリズム隊の凝り方が半端ないよね…みんなは『FOR YOU』どうでした?
葱: インタールードが4つ入ってたじゃないですか。それがすごいなと思って。もっとシングル集めたみたいなアルバムだと思ってたら、ちゃんとアルバムっぽくしてるのが。
湘南ギャル: 私も結構インタールードをちょくちょく挟まってるの好きだなー。
The End End: 俺はインタールードがいっぱいあると、醒めちゃうんだよな。途切れちゃうというか。
湘南ギャル: 逆じゃない?何個も入ってるから曲、曲、曲…じゃなくてアルバムになる感じのイメージ。私はね。
The End End: 逆に言うと俺、そんなのインタールード挟んだらできちゃうに決まってんじゃんって思う。だから、インタールードじゃない曲だけでそういう、ひとつの流れ作ってる方がやべえって思うな。あんまりないけど。何個も入ってると“そりゃな!”って思っちゃう。
葱: まあ、確かに。
湘南ギャル: 単純なオタクだからさ、4曲目とかで1曲目のフレーズとか3曲目のフレーズとか繋げて5曲目に行くとさ。軽率に興奮する…
和田醉象: 完全にモーニンググローリーじゃん。
一同: (笑)
キメなんてダサければダサいほど良い
しろみけさん: じゃあ、和田さんのフェイバリットは?
和田醉象: まあ、そりゃINUなんだけど。なんだけど、それだと身も蓋もないし、大体言いたいことは書いちゃった気がするから…今回聴いて“ああ、良いのがありますね”っていうやつだったら、『マラッカ』かな。PANTA&HALは昔聴いて挫折したことがあるんだけど、今回聴いたら良かった。
しろみけさん: 私も、確かにあれは良いと思った。
湘南ギャル: (PANTAは)前回頭脳警察で出てきたけど、全然違った。
The End End: 前回は分かんないねっていう話で盛り上がったけど、良かった。なんか、ここに来るんだって、そういう感動が。
湘南ギャル: めっちゃカッコつけてるのがカッコよかった。
渡田: 僕もそもそもグラムとか、こういうのが割と好きなんだよね。聴いてて恥ずかしいっていうのもわからなくないけど、好き。
しろみけさん: 桜子も好きそうだと思ったけど。
桜子: えー、なんか日本語ってなると、あんまり…第一印象は良かったからレビューでは好きって言ったんですけど、繰り返し聴いてはない…
葱: なんか、キメとかダサくないですか?
湘南&End: それが良いんじゃない!!
The End End: キメなんてダサければダサいほど良い。
いくつになってもブルーハーツ
しろみけさん: じゃあ、葱の番。
葱: 私はブルーハーツが一番。アルバム一回も聴いたことなかったんですけど。
湘南ギャル: 私も初めて聴いた。
葱: 僕はCMで女の子が歌ってたり、リンダリンダリンダって映画とか…あとGEZANってバンドが好きで。“リンダリンダはもう聞こえない”て歌ってたり。そういう、ブルーハーツを受けてその、二次創作じゃないけど、受けた上で解釈するやつしか聴いたことなかったんで。本物聴いて、こんな素直に全部カッコいいことやってて、もっと早く聴いてれば変わったのかなとか。
湘南ギャル: めっちゃ簡単な言葉なのに、誰でも知ってる言葉なのに。
葱: そう。めっちゃレビュー上手い人ってこういう歌詞書きそう。
しろみけさん: 意外とさ、あれだよね、歌詞調べたらさ、みんなが食らってるのってマーシーの方だったりする。
湘南ギャル: え、そうなんだ。
葱: 「未来は僕等の手の中」、マーシーなんだ…
The End End: あとは、例えば「終わらない歌」とか「爆弾が落っこちる時」なんかもマーシーだね。
しろみけさん: マーシーの方がみんなの言ってるような成分っていうか、簡単な言葉で、みたいなのがあるかも。ヒロトは実は、ストレートではあるんだけど、叙述的な感じというか。しっかりレトリックを使ってる。
世はまさに、大YMO時代
The End End: じゃあ、次は俺か。『軋轢』の話はさっきしちゃったからな…
葱: 『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』改めて聴いてどうだったかとか。
湘南ギャル: なんか変わった?
The End End: 変わんないっすね…。(笑)むしろみんなどうだった?初めてソリステ聴いたよって人。
湘南ギャル: はーい!…って、一人だけ?
和田醉象: 俺もちゃんと聴き直したのは初めてみたいなもんだな。
The End End: あ、昔1回挫折して…みたいなこと言ってた。
和田醉象: 人生の転換期にあるアルバムだから。
The End End: ソリステがわかんなくて、P-MODELに行ったんだもんね。
渡田: おかしいよ。
和田醉象: 元々マイケルジャクソンが好きで。マイケルがカバーした曲があるって聞いて、原曲聴きたいなと思ったら、なんか全然良くねえなって小学校の時思って。で、YouTubeで聴いてたら次の曲がP-MODELの「SPEED TUBE」ってやつで。
湘南ギャル: ソリステカッコよかったけど、「ライディーン」と「デイ・トリッパー」はちょっと苦手だった。YMOだったら『増殖』のが好き。
しろみけさん: 私も、『BGM』の方が好きだったかな。
湘南ギャル: 『BGM』は逆にマジで分からん。
葱&和田醉象: 『BGM』の方が好きだった。
The End End: それはやっぱりYMO観の違いっていうか。俺は、のちに世に出た『BGM』的な他のものを死ぬほど聴いてるからっていうのはある。
湘南ギャル: ああ。
葱: それってどういうのですか?
The End End: テクノ的な、TR-808の16ステップのループシーケンスによって規定される音楽っていうのは、俺はめちゃめちゃ他のを聴いてるから、後から『BGM』聴いても全然新鮮に聴こえないっていうか。
しろみけさん: なるほどね。
The End End: で、YMOを始めた時のコンセプト自体は、どう考えてもファーストとソリステで達成されてると思うのね。それを達成してしまった後にどうもがいてきたか、っていう記録が『BGM』とか『テクノデリック』じゃん。っていう意味で、俺はソリステが結局YMOの到達点だなって思う。
渡田: その説明はすごく納得するな。
The End End: みんなの感想も聞きたい。
渡田: ちょっとThe End Endと違う目で見ると、『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』は、僕と僕の母親にとってかなり特別なアルバムで。僕の母親が田舎者で、 横浜に出てきた時に初めてできたちょっと変わった友達が見せてくれたのが『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』で。そこで“私、音楽が好きな人間だったんだ”って思ったっていう話があるんだけど。
湘南ギャル: その話めっちゃ良いよね。
渡田: そういう電撃じみた、音楽好きだということに目覚めさせる音楽だよね。どっちかというと、理屈よりもマインドの方ですごい曲だって、僕もそういう面でずっと聴いてたし、そういう感想で納得してたから、ちょっとThe End Endの感想とは違うけど、やっぱり特別な音楽だと思う。
しろみけさん: 私はユキヒロがあの中で一番好きだから、『BGM』が好きだな。ソリステもめちゃくちゃ好きなんだけど。ソリステはなんか、他の作品と比べてちょっと特殊すぎるっていうか、変な気がする。ファーストは多分普通に聴いたらフュージョンって思っちゃう人もいるような感じだし、後の作品になるとテクノとかの源流みたいになってるけど、これはなんかもう、そういうのじゃないっていうか。他のどれでもない。
The End End: だから、俺、最高なの。
しろみけさん: すごい消極的な芸術性っていうか、人間らしさのないグルーヴを追求っていう方が、自分たちのプログラミングでリズムを作って、それをちょっとずつずらして…
湘南ギャル: それを知らなくても、ただカッコいいしね。
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前編はここまで。中編では引き続きメンバーのフェイバリット・アルバムについてお話ししていきます。