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Cat Stevens『Tea for the Tillerman』(1970)

アルバム情報

アーティスト: Cat Stevens
リリース日: 1970/11/23
レーベル: Island(UK)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は205位でした。

メンバーの感想

The End End

 フォーク/カントリー的なものを基調にしつつR&B/ソウルのムードも纏っている感じ、ジェームズ・テイラーやレナード・コーエンあたりの類型……?こんなにイギリスの味がするこの手のアルバムっていう意味では、キンクスの『Something Else〜』とも接続するかも。
 もしくは声の雰囲気や、後年イスラム教へ傾倒して一時的に音楽業界を離れたりする経歴から、小坂忠の顔も頭に浮かんできた。彼に限らず、はっぴいえんど周りの作品が好きな人なハマりやすいかも、という気がする。
 こういう作品を"なんかゆったりしてて良い曲〜!"だけで済ませずに楽しめるようになっているの、確実にこの企画を通して培われた感覚だな。

コーメイ

 終盤での、独唱であったところから、ゴスペルが入って賑やかになる構成が面白い。序盤から、ゆったりかつ牧歌的にアルバムが進行していった。少し途中で起伏があったものの、大きな揺れとはならず、終盤へと向かっていった。だが、最後の曲の終わりで、みんながわっと集まってきたかのように賑やかになった。この点が、聴いていて、"へぇ"となった。

しろみけさん

 ミュージック・マガジンのレビュー企画で、1970年代前半の四畳半フォークが評価されていたことを思い出した。ボブ・ディランやジョニー・キャッシュなど、これまでにも多くのフォークシンガーが登場してきたが、キャット・スティーブンスとは詞の射程が大きく違ったように思える。先に挙げた2名が、″ミクロな事象からマクロの構造を骨抜きにする″という広がりを持っていたのに対し、キャット・スティーブンスのそれは、ミクロなものがミクロなまま、生気を放ち続けていることに美点がある。つまり、お父さんのことを歌っていたら、本当にお父さんのことを歌っているのだ。歌を個人史に限りなく弾き付けられる、それは紛れもない天部の才だ。

 名前も初めて知りました。このジャケ写の牧歌的な雰囲気の通りのフォーク/カントリーミュージックにほんの少しだけ"がなり"が加わると、ピアノやアコギの音の強弱が感情的に聴こえるんだなという発見。ボーカルに引っ張られて音に意味が加わるのはinterestingだ。

みせざき

 ここまでに出てきたフォークシンガー達よりも全てが純粋さで纏められている気がする。メロウな歌がそのものとして入ってくるような温かさが心地良いと思った。初期のデヴィッド・ボウイの歌い方の直系の影響元にも思わせる。

六月

 もし自分がティーンエイジャーのときだったら、四六時中レコードプレーヤーでかけまくって、そばから離れないアルバムになってたかも。そばに寄り添ってくれる感じがある。それも学校の中でひとりぼっちのやつに。それくらい、音の波形と僕の心のささくれたギザギザがぴったり合致する音楽だった。あとジャケかわいい。

和田醉象

 素朴で、今までの人生の何処かで通った道のりや風景を彷彿させるような味わい。だけどそれだけじゃなくてその道程には実はこんな物があったんだ、気づいてなかったでしょう、という面白い指摘が含まれていてそれが素朴なサウンドながらに独自性を音楽に添加していると感じる。ジャケ通りの音楽だ。ジャケはこの企画の中で一番好きですね。部屋に飾っておきたい。
 一番好きなのは「Sad Lisa」だ。"Lisa Lisa"と繰り返すキャッチーさもあるが、他の曲はどこか牧歌的なのに、日が沈んで暗闇の中一人で落ち込んでる感じになる浮いてる感じが好きだ。ピアノが主体なのも面白い。Beatlesの『Revolver』における「Elenor Rigby」みたいな特異さ。変化球にも自分の味が載っててアルバム全体のブレなさみたいなのがアーティストとしての地力をうかがえるのも面白い。

渡田

 ファンクやロックなど、複雑な構成のアルバムのレビューが多かった中、アコースティックギターメインのシンガーソングライターを久々に聴いたような気がする。
 アコースティックな音は素朴なようで、その実大袈裟なくらい情緒たっぷりな場面もあった。ディズニー映画にも流れてきそうな、複雑すぎないけれど心湧く瞬間のある音楽。

次回予告

次回は、George Harrison『All Things Must Pass』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
#アルバムレビュー


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