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耳を滑る音、困惑するレビュワー、それでも感想と締切は君を待っている——「或る歴史と或る耳と」10週目を終えてのレビュワー座談会:後編
ミュージック・マガジン誌「50年の邦楽ベスト100」のランキングを年代順に聴き、数人のレビュワーが感想を残していく企画「或る歴史と或る耳と」。今回はその特別編として、ここまで30枚の名盤を評してきた参加メンバーたちが集合し、雑感やアルバムへの思いを語った座談会の様子をお届けします(参加メンバーのうち、葱と俊介は日程の都合により不参加)。
後編では各々がレビューを書くのに苦労したり「わからなかった」アルバムについて語っています。音楽ラバーたちが普段聴かないジャンルと出会う瞬間、その困惑する様子をゆるりとお楽しみください(※アーティスト名は全て敬称略)。
人にはヒトの山下達郎
The End End: そろそろピンと来なかったアルバムの話もしようか。
湘南ギャル: 最初に言っちゃったけど、鈴木茂『BAND WAGON』とヤマタツ。
渡田: 陽キャだからさ。
The End End: 陽キャの話しようよ。(笑) 私は初めての出会いだったんだけど、ヤマタツに抱いてた嫌なイメージがここにはなかったかな。ドラムにめっちゃリバーブかかってて、過剰にコーラスが重なってて、ムォーンみたいな歌い方でしょ?って思ったら違ったから、意外と全然聴けたなって。
湘南ギャル: 爽やかだったなぁ。
The End End: あと、ドラマーなんだなって思いました。リズムの組み方とか、曲ごとにちょっと処理が変わってたり。キックのコンプの感じとかスネアとか、曲ごとにちょっとずつに変わってるのに同じムードなのはすごいなと。
しろみけさん: うーん。『SPACY』だけかもしれないけど、フックが全然ないんだよね。装飾がなくて、マジで演奏しかないというか。ヤマタツというより『SPACY』を書くのが難しかったのかも。良いには良いけど、ツルッとしてる。
渡田: でも君偉いのがさ、合わないやつでもちゃんと書くよね。
しろみけさん: そりゃ書くよ。(笑)
渡田: 僕と和田さんとみせざきさんとかはさ、露骨に字数変わるというか。3行くらいで終わったり。
しろみけさん: 桜子とかは元から多くないけど、感想人(かんそうじん)の弱点はそこだよね。
The End End: 感想がない時に書けない。(笑)
渡田: なんか良いやつも悪いやつも一個にまとめるよね。
シュガーベイブ的な時代|「本当に最悪な感想なんですけど」
The End End: みんなが一番無理だったのは? 書くのムズいのでも良いし、聴いててわかんなかったのでもいいし。
談合坂: あんま出てこなかったのはシュガーベイブだった。今の耳で聴いても、何を言えば良いのかというか…
しろみけさん: 今はシュガーベイブ的なものが多すぎるが故に、聴いても「どうしよう」っていうのはわかる。今、参照されまくってる場所だからこそね。
The End End: 「知ってるな」って感じだもんね。俺もディテールに逃げるしかなかったもん。
しろみけさん: 10年後に聴いたらフラットに聴けるのかなと思う。今は良くも悪くも、シュガーベイブ的なものをみんなやってるからさ。桜子とかはどう?
桜子: 本当に最悪な感想なんですけど。
湘南ギャル: 楽しみ。(笑)来い来い来い…
桜子: RC?サクセション?歌声が嫌い…。
一同: (笑)
The End End: 書いてた書いてた。(笑)
しろみけさん: トムヨーク現象ね。(笑)良さでもあり悪さでもあるから。
渡田: フィッシュマンズとかは?
桜子: いや、フィッシュマンズとかは好き。
しろみけさん: クセのある声は苦手じゃないけど、あのクセは苦手っていう。
桜子: なんかムリだった。(笑)
湘南ギャル: まぁしょうがないよね〜。
和田はるくに: 全然違う人がやってるけど、タイマーズとかなら聴きやすいかもね。全然違う人だけど。
The End End: 全然違う人だけどね。
『オトナ帝国』のイエスタデイ・ワンスモアが作り上げた帝国の中で流れてそうな曲
しろみけさん: みせざきさんは?
湘南ギャル: ギターがないやつ?(笑)
The End End: 冨田勲とか?(笑)
和田はるくに: 冨田勲はどうだったの?
みせざき: 冨田勲は面白かった。ジョン(フルシアンテ)もmoog使ってたし…。
和田はるくに: あ、ジョン史観か。(笑)
みせざき: えーでもなんか、はちみつぱいとかかな。あんまりにも綺麗すぎて…
しろみけさん: カッコいい、良い感想すぎる。
湘南ギャル: とっかかりがない系ね。
みせざき: こう言っちゃなんだけど、古臭さを感じたかな。全然嫌いじゃないけどさ。
和田はるくに: 『火の玉ボーイ』は?
みせざき: いや、書けたなぁ。はちみつぱいも“月夜のドライブ”とかは書けたんだけど、1,2曲目のムードが「あ、あ」っていう。(笑)
The End End: はっぴいえんどっぽいというか、はっぴいえんどの中でも大瀧詠一と細野晴臣の大瀧側にだいぶ寄ってるかなって。
和田はるくに: それはあるね。
渡田: 古臭いよね。『オトナ帝国』のイエスタデイ・ワンスモアが作り上げた帝国の中で流れてそうな曲。
The End End: 当時聴いてもノスタルジックだっただろうなってのもある。めちゃくちゃいい曲だけどね。
「何も思えなかった」|感想人(かんそうじん)の傾向
しろみけさん: あなた(The End End)の苦手なやつはなんだったんですか?
The End End: …四人囃子です。
一同: えぇー!
The End End: 四人囃子が一番何も思えなかった。そんなに面白いことが起きてなかったというか、なんか退屈じゃない? もっとコテコテだったらそういうものとして聴けるんだけど、なんかどっちでもねぇなって。
渡田: プログレでも「そろそろメインの曲始まるかな〜」って思って待ってたら終わったみたいな。(ピンク・フロイドの『狂気』で言えば)“Moneyと“Time”が入ってない感じ。
The End End: ゾッとするね。(笑)
渡田: プログレ聴くんだっけ?
The End End: 全然。それこそ『狂気』一周して、クリムゾンも『Diciplin』しか聴いてない。もっと言うとほぼ“Elephant Talk”しか聴いてない。
湘南ギャル: イエスは?
The End End: 一曲も知らない…。
しろみけさん: プログレ聴いてるかどうか、てのもあるかも。
しろみけさん: 書きづらさの話はさっきしたけど、刺さらなさで言ったら頭脳警察かなぁ。
The End End: 頭脳警察は俺も「これはどこを面白がればいいんだろう」って。
湘南ギャル: それはそうかも、「その時代だったら良かったんだろうな」ってのもある。
しろみけさん: 頭脳警察こそ、感想人(かんそうじん)がイキイキ書いててさ。で、次の週の『HOSONO HOUSE』で一気にそれが逆転するのよ。(笑)
渡田: そうね、『泰安洋行』とか難しい。プロデュースだといいんだけど、前面に出てくるとダメなんだよね。アメリカンなのと和風なのがごった煮になってる感じ。
しろみけさん: いろんな国の要素がありつつ、どこでもないみたいなね。
発禁…?過激…?なーんもわからん
しろみけさん: 話を戻すと、頭脳警察は「このショボさがウケてたの?でもこのくらいのショボさっていうほどショボい?」みたいな。
The End End: そう。ショボいにしてはショボくないから困っちゃう、「これどっちでいけばいいの?」みたいな。5回くらい聴いて分からなくて、とりあえず1回Perfume聴いたもん。(笑)
しろみけさん: 楽しみ方がわかんない。
渡田: なんか、頭よさげなんだよね。
しろみけさん: でも頭は良くないんだよ!
渡田: わかる、キヨシローとか純ちゃんほどの繊細さはない。
しろみけさん: 自称進学校みたいなさ。キヨシローとかはガチの進学校なのよ、開成とかさ。でも頭脳警察は偏差値61くらいの…。
渡田: 能ある鷹の割にはそこまで爪が鋭くない感じ。隠すほど?っていう。
しろみけさん: ただ、それが受けてた時代もあるんでしょうね?っていう。今聴いたら何がなんだか。あと歌詞が過激とも言われるけど、何が過激なの…?っていう。
和田はるくに: 割と比喩を重ねてはいるよね。
しろみけさん: これくらいの比喩を重ねてたら許されることもない?
The End End: その過激さを発禁にするほどリテラシーの高い時代だったの?(笑)
和田はるくに: でも、ジャケに三億円事件の犯人の写真使ったりさ。
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しろみけさん: でも2は違うじゃん?だから2が入ってるのも訳がわかんない。1だったらわかる。PANTA自身が危なくて、それを発禁にしようってのならわかる。ただアルバムを聴いて何を思えばいい?ってのはあった。
The End End: 俺もそう。それだと村八分は山口富士夫の芸がしっかりしてるから書けたし、もっと歌詞がラディカルだからさ。
しろみけさん: ちゃんと言えない言葉を言ってくれるよね。バンド名の時点でダメだし。
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ちゃんと言えない言葉を言ってくれるバンドが登場したところで今回の座談会はお開き!次回の座談会は20周目終了時に開催される予定です。それでは引き続き「或る歴史と或る耳と」をお楽しみください。
編集・構成:しろみけさん(https://note.com/ky_spy2000)