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Led Zeppelin『Led Zeppelin Ⅳ』(1971)
アルバム情報
アーティスト: Lod Zeppelin
リリース日: 1971/11/8
レーベル: Atlantic(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は58位でした。
メンバーの感想
The End End
今待っている目の前の信号が、10分前に何色だったかについて考えることはあるだろうか。私はない。興味がないからだ。それが赤でも青でも、私は嬉しくならないし、悲しくもならない。
レッド・ツェッペリンを愛するみんなに申し訳ない気持ちでいっぱいではあるのだが、私にとって、レッド・ツェッペリンは10分前の信号の色とさして変わりがない。このサウンドの背景にも、このサウンドが生み出した結果にも、興味が持てない。ロバート・プラントがハイトーンを張り上げるたびに、そして張り上げれば張り上げるほど、私の頭は冷たく整頓されていく。ここまでくると私の感受性の方に欠陥があるのだろうと思うほど、何かを感じる気になれない。ハードロック不感症と罵ってください。
コーメイ
柔も剛も良しといったアルバムであった。押すところは押し、引くところは引いていた。ときどき、技術を見せつけるところもあったけれども、それ以上にメリハリが効いていた。この緩急が、聴いていて良い点であった。
桜子
初めて聴いた時から、今までずっと、これを聴くたびに"J-POPなんて聴いてる場合じゃない!!!!"って気持ちになっている!!今も!!
ハードロックの模範のように思えた1stからは一変して、私達が想像する、ロックらしさのようなものは薄れていると思います。誰もここに到達できなくなってしまった。孤高のアルバムです。私がツェッペリン好きだなーと思うのは、権威的でありながら、形式にとらわれていないからです。ギターのボイシングが本当に気持ち良いなあー。
湘南ギャル
クラシック・ロックを聴くには、気合いと元気が必要だと思っていた。聴いてるとどうしても肩に力が入ってくる。でも、このアルバムは良い意味でそれを裏切ってきた。全体の流れは直線的でなく、円環をなしていて、流れるプールで浮いているような心地よさで何周もしてしまう。何重にも重なる音にもやかましさは一切なく、むしろ厚みや円熟さを増長させている。個々人の好みなんて軽々と吹き飛ばしてしまう、これぞ名盤の持つパワーだ。
しろみけさん
イヤイヤ、「When the Levee Breaks」でみなさんもっと騒いでくださいよ!!!! こんなのブーンバップまんまやないですか!!!!!!!(実際、めっちゃサンプリングされてた)
というかドラムの録音が良すぎる。鳴ってる音のグラデーションが絶妙で、タムかと思ったらバスドラだったり、バスドラだと思ったらタムだったりする。だからこそA面の「The Battle of Evermore」〜「Stairway to Heaven」前半の、ドラムがない箇所の楽しみどころを探すのに難儀した。リフとドラムパターンで最高の4小節を作ってひたすらループするっていう、ヒップホップのあの一番気持ちいい瞬間に接近しているのに、本人たちが気づいていないような気がする。もっとドラム叩いてよ!
談合坂
拳を握りしめて勇み歩きたくなる。専ら身体感覚の次元での快を突き詰めている感じがして、まさにハードロックだなと思う。いわゆるクラシック音楽がコンサートホールで追求したものに引き寄せられることなく、感性的なものを追求するひとつのアプローチがこういうものなのだろう。楽曲展開のドラマチックさも、大きく頷くことで応答したくなるタイプな気がする。配列としてのリズムとか聴き手として共有するグルーヴとかじゃなく、腕の動きを聴くタイプのドラムが結構好き。
葱
『III』を飛ばしたからなのか、これまで聴いた2作とえらく雰囲気が違うことに驚く。ギタープレイには繊細さが、ボーカルには懐の広さが、ベースとドラムには余裕が生まれた気がする。プレイヤー同士の殴り合いからソングライティングへと意識が移り、雄大な自然や向こう側の景色が浮かぶような、詩情や叙情を感じる隙間があることに驚く。ブルースやフォークの持つ"密やかさ"のような要素が、エレキギターによって鮮やかに再提示され、これまでの音楽の流れを肯定し続ける。"ロックンロール!"と押しつけるのではなく、"ロックンロール…"とゆっくり僕らをどこまでも転がしていくようだ。"特定の美意識しか認めない意固地なもの"として"ロック好き"みたいな人達を仮想敵として色々書いてきたけど、このアルバムについて何も知らない状態でレコード屋さんでたまたま出会ったりしたら、一生取り憑かれたままになるのもわかる。
みせざき
Led Zeppelinに出会ってからもう10年以上経過していて、出会った頃には自分には音楽自体のライブラリもストックもほぼ無かったから、正直ハードロックとか関係なく、音楽という大定義を定める作品として本作を認知していた。だから今更改めて持つ感想というのは正直あまりない。強いて言うと本作の中では一番影を潜めていた「Four Sticks」のリフと展開に久しぶりに奮い立たせられたくらいだ。
ジミーペイジに一番感じるのは組曲的にフレーズやリフを構築し、何層にも重ね合わせ、大曲として昇華する。その才能が「Stairway to Heaven」にてとうとう発揮された。当たり前だが、Aメロ、Bメロといった感じに曲作りするわけではなく、章のように曲を展開していく。
あと民謡音楽への接近が顕著なのも特徴だ。多分これほどまで民謡のサウンドを取り入れたアーティストは居なかったと思う。だからLed Zeppelinを聴くことは凄く原始的な体験に通ずる。「The Battle of Evermore」なんか原始時代から鳴っててもおかしくないサウンドだと思う。
ただ色々な音楽を吸収しているアーティストや作品は珍しくないが、ジミーペイジは音楽に対して持っている視野自体が巨大だ。多分1970年代に生きてるからロックという形態で表現していただけで、時代がズレていたらバッハやモーツァルトと変わらない存在だったのでは無いだろうか。
六月
『Ⅱ』の記憶から、さぞ大仰なハードロックが針を落とした瞬間から繰り広げられるのだろう……と思っていたが、意外にもやり過ぎることなく落ち着いていて、意外だった。やはり聴かず嫌いは良くない。「Stairway to Heaven」なんか、Queenの「Bohemian Rhapsody」ばりにテンションをブチ上げてギターソロ弾き散らすのかと思ってたらそうでもなく、意外とチルな曲だということが聴いて分かった。全体的に感じるのはどことなく乾いていて、スピリチュアルな雰囲気。Jimmy Pageがこのころ黒魔術に凝っていたということも納得できるような、どことなくエレクトリックから離れた田園風景が思い浮かぶような印象を受けた。
個人的にはアンセムつるべうちのA面よりも、「Misty Mountain Hop」や「Four Sticks」といったB面の方が断然好み。あと、「Black Dog」のJimmyのギター、リズムキープもヨレヨレすぎてもはや下手じゃない?なんで録り直さなかったんだろう。
和田醉象
彼らの最も素晴らしい作品の一つとして挙げられることもあるアルバムだが、改めて聴いてみてどうして評価されるのかがわかった気がする。
この後の彼らのキャリアを考えると、従来のハードロック的なコテコテな楽曲は鳴りを潜めて、代わりにファンクや複雑なリズムのリフが行き交うようになるのだが、このアルバムはちょうどその転換期のエッセンスを閉じ込めていると思うのだ。どちらよりだけでもなしに
例えば『Black Dog』や『Rock'N'Roll』は従来の路線上にいるが、その路線の要素に映画のような物語性や情景描写を巧みに組み合わせた『Statiway To Heaven』のような楽曲も代表曲として肩を並べている。
前作「Led Zeppelin Ⅲ」で言うところの『Tangerine』的なアコースティック路線も『Going To Califolnia』で著しく光を放っている。
『When The Levees Break』なんか、シンプルなフレーズなのに気が狂いそうなほどドラミングが素晴らしい。ほんと、シンプルに叩いているだけなのに鬼気迫る音なんだ。
言及していない曲についても言うまでもなく演奏も曲も素晴らしいの一言だ。わかりやすく言い換えれば"非の打ち所のないロックンロールアルバム"ということだ。(もちろんボーカルだったり作風に人によって好みがあるだろうけど)
しかし、個人的にはこの後更に深く展開、拡張されていく後年のアルバムのほうが試行錯誤している感じがして好きだ。神々しすぎて親近感がわかない。『Led Zeppelin Ⅳ』なんて皆言うが本当はタイトルが存在しない、無題のアルバムなのだ。メンバー本人たちからしても完璧すぎ、と思っていたのかもしれない。凄まじい内容だが、この内容を出力できるバンドがいたことに現実感がない。聴いていて萎える、ヘコむ、自信がなくなる。なんで自分と比べてんだってな話だけど。
渡田
以前レビューしたツェッペリンIは結構好き、ツェッペリンIIはそんなに……という感想だった。今回のアルバムは好きな方。もちろんハードロックの印象は強いのだけれど、ギターの音の輪郭が意外にも曖昧で、こちらの考えていたハードロックらしさをいい意味で裏切ってくれた。
ギターが主役になって鳴り響くのは溜めに溜めた最後の場面だけで、全編を通してテクニックを見せる訳ではなく、決めの演出として使われている感じ。オペラさえ彷彿とさせた。
次回予告
次回は、Nilsson『Nilsson Schmilsson』を扱います。
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